第45話 

 客がいなくなった店内で、アンナさんは私に選択を迫った。ディアは私とアンナさんの間でオロオロしている。


「セレスは、強いねぇ。アタシなら気が滅入っちまうよ。さあ、選びな。」

「うっぷ。食べ過ぎた……これは?」

「片道分だけど応録石おうろくせきさ。路銀が貯まったら、行きたいんだろう?」


 指輪との会話を聞かれたのだろうか。怪訝な顏をしていると、アンナさんは肩を竦めて「居心地悪そうだったからね。」と言った。露骨な態度をしていたらしい。

 『だいぶ大人な顏してたわよ?』と指輪から笑い声が聞こえてくる。年相応ではないか。


 ”応録石”という単語が聞こえた。聞いた事が無い、言葉。

 セレスは乗船手続で見たようだ。


『北西に火山、西ならセレスの生まれた村、船に乗らずに川を渡って北上すれば大きな街があるわ。』

「えっと、街?」

「街に興味があるのかい? セレスは問題ないだろうけれど……。」


 この世界にも、差別がある。


 マノンを崇拝する者にとって、土に属するディアは優遇されない。

 しかし、セレスとの約束を守ろうと耐え続けた結果、少しずつ認められてきたようだ。痛みもへこみも疲弊もしない体には、人の暴力は無意味だろうし。


 アンナさんがディアをチラ見する。大きな街は、ディアにとって苦でしかないのかな。

 私とアンナさんの視線を受けてキョロキョロしている頭を撫でてあげる。かわいい。


「ディアは、どこに行きたい? それとも残る?」

「セレスと一緒が良い。」

「お熱いねぇ……2人に抜けられると、痛手なんだけどねぇ。」


 前掛けエプロンのポケットから小さな袋を取り出して、私に差し出してくる。給金らしい。これだけあれば、街までの路銀になるかな?


 ニマニマし始めた私の裾をディアが引くので気を引き締めて顏を向けると、言いにくそうに口を開いた。


「セレス……質問して、良い?」

「何? 改まって。」

「あのね? ここの給金で返すとね、100年はかかる気がする……セレス?」


 硬直した。

 少額で浮かれた情けない私を見て、ディアが「白くなっちゃったよ!?」と言っている。

 バイト増やさ……増やせるのかな。


―――――――――――――――


「返済に何年かかるのよ?」

「ざっと101年と4か月分です。」

「それは金額で言えば、でしょう? 実労働は?」

「彼女たちもいます。10日もあれば終わるでしょう。」

「支障が無ければ良いわ……時間はあるわね。」

「ダイエットしましょうね。」

「うぐっ。」


―――――――――――――――


被害

 主人公の心「異世界でもローン……何年残ってるんだろ。」

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