第40話 見えていたモノ

 長くなりそうなので中断させ、席を立った。用は済んだし、風ギルドの腐敗も知れた。

 買取以外に寄る必要は無いだろう。


『……人間ヒトは、愚かだな。』

『何を今さら。』

『私は火山を伸ばし続けていた。ここまでだとは、思わなんだ。』

『アレはマシな方よ? 私たちを操ろうとする奴までいるんだから!』

「……なんか、ごめんね?」


 水着から火の粉が舞う。ローブの袖や裾、首元から漏れていく火の粉は熱くなかった。少し寂しいような、何かを悲しむような……?

 指輪から滴る水は、少し灰色に濁ったようだ。セレスは、こういう時どうするのだろう。

 アンナさんの食事処への道すがら、考え込んでいた。


『セレスもどき、覚えておきなさい。あなた次第よ。』

『お前は、腐ってくれるな……。』

「ふぅ、がんばるよ? 食べてから考えようね、マノンが元気無いし。」


 色や濁りが、多少戻ったようだ。私も同調していたら、何が起こっていたのだろう。

 



 食事処に入ると、私に視線が突き刺さる。心なしか、重い空気が感じられた。

 私の恰好を見て「ちっ、ギルドの犬になったのかよ。」という声が聞こえてきた。ローブを着たままだった。

 奥から走り出てきたディアが私に気づき、立ち止まる。泣きそぼつ瞳に申し訳ない気持ちが込み上げてくる。手にはカゴを持ち、毛布まで持って……。


「セレス? 何で……?」

「ただいま、ディア。アンナさんいる?」

「ローブ……。」


 どうしたのだろう、ローブが気になるようだ。服が汚れた事と、着替えが無いから仕方なく着ている事を伝えても、ディアの顏は……納得していない。

 手を差し出そうとしただけで、警戒されてしまう。何か『私の知らないシガラミ』があるらしい。


「セレス、そのローブは?」

「え? 替えの服が欲しいです……。」


 奥から出てきたアンナさんの問いに答えると「動かないで待ってな。」と言い、再び奥から持ってきたの厚めの服を私に投げた。

 アンナさんにしがみ付くディアに目を逸らされた。どうやら味方は、いないらしい。


「着れば、信用してくれますか?」

「着れれば、ね。」


 どういう事だろう。恥ずかしさはあるが、ローブを脱ぐだけだ。ささっと脱いで床の服を掴んだ時、水着の火から声が聞こえてきた。


『待て、汚れた服は好かん。』

「え? 我慢してよ……今、これしか無いんだよ?」

『好かん。』


 着たら燃やすぞ、という意思が水着の温かさから伝わってくる、と言うか熱い……。

 水着に指を入れ少しズラした時、野郎どもの視線が好色を帯びたエロくなった。エロジジイどもめ。


『その服、隷属させるための服よ? 私たちには関係ないけれど。』


 聞こえてきた指輪の声に、周りの人間モノを信じられなくなりそうだった。


――――――――――


「悪趣味ね。」

「ですね?」

「……何よ。」

「いいえ?」


――――――――――


被害

 ディアの持っていたカゴ:落下による損傷


補足

 隷属の縛り縄:体に絡みつき行動を強制する道具

        作中では、ほどいた後、服に編み込んだモノが登場する

        編み込んだ量に応じて強制力が異なる

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