括弧仮名さん

 

「朋ちゃん、私に何か言いたい事って無い?」

 天音の部屋でいつもの部屋デート、紅茶を飲み、クッキーを食べながらファッション雑誌を広げて次のデートのコーディネートを相談している時に天音が少し思い詰めた表情で私にそう言った。


「え、ど、どうしたの急に」


「えっと……朋ちゃん最近疲れてるみたいだから」


「え、そ、そうかな~~」


「うん、お肌の具合も……凄くいい、でも、お顔の調子は……めゃくちゃ可愛い……可愛いな~~やっぱり」


「な、なに、どうしたの天音?」

 最近は化粧水も付けてるし、髭は元々薄いけどちゃんと抜いてるし、眉毛もキチンとお手入れしてるし……


「ううううう、なんで朋ちゃんは私を選んでくれたの?」


「え、ええええ!」


「だって私めんどくさいし、可愛くないし、妹だし」

 ずーーんと落ち込む天音……えっと、確かに少しめんどくさい……


「天音、ぼ……私は天音が大好きだよ、少しめんどくさくて、怒りっぽくて、ナイーブで……でも、そんな所も全部好き、なにより私の事を好きでいてくれる、私の中身を好きって言ってくれた。私も天音の……髪も目も鼻も口も、心も身体も全部好き、ぜーーーーーんぶ大好きだよ」


「か、からだゃ!!」


「あ、う、うん……」


「う、うん……ありがと」


「ううん、私も」

 ああ、天音、大好き抱きしめたい。でも私は今女の子……だからキスしか出来ない…………あれ女の子同士っているよね? えっとGLって奴? そういう人達ってその……いわゆる身体の関係ってどうしてるんだろう……えっと? キスだけって事は無いよね。


 勿論こんな容姿でも私は男、男の子なんだから、その……そういう事に興味が無いわけではない。勿論その手の本だって読んでるし……その、ネットでも……でも……あんの温泉での天音は……天音の身体は……今まで見たどんな本でもサイトでも見た事が無いくらい綺麗で可愛くて、その……


「朋? ちゃん?」


「ひうっ!」


「ひう?」


「ううううん、なななな、なん、なんでも、なんでもな、な、ないよお」


「物凄くなんでもありそうな言い方だけど?」


「ううん、でも、どうしたのさっきから」


「うん……じゃあ……正直に言うね、あのね……うちのクラスの子に……朋ちゃんのクラスの人の妹さんがいるの」


「え? えええええええええええ!」


「うん、だから……」


「そ、そうか……聞いちゃったんだ……」


「うん……」

 そうか……それで天音の様子がおかしかったのか……


「ごめん、天音に心配掛けたくなくて」


「ううん、でも……言ってねなんでも」


「うん、ごめん」


「ううん、それで朋ちゃんは大丈夫なの?」


「うん、私は大丈夫なんだ……けど……」


「けど?」


「クラスの女子、中学の時のクラスメイトが天音の事を知ってるみたいで」


「私の事?」


「ああ、まあ正確には私に妹が出来た事を知ってたみたい」


「誰から聞いたんだろう?」

 特に言う必要も無いから誰にも言ってないんだよね、どこかで見られたのかなぁ?


「それって亀井(仮名)ちゃんからかな?」


「かっこ仮名? ぷぷ、なにそれ」


「ああ、笑ったああ、酷い~~~」


「だ、だってえええあははははは」


「ち、違うんだってばあ、な、なんかあ、もうじき名字がが変わるからって亀井(仮名)ちゃんがあああああ」


「ま、また、ぷぷ」


「ああああ、癖でええええええ」


「名前で呼べばいいんじゃない?」


「あーーー」


「え?」


「いや、亀井(仮名)ちゃんの名前ってちょっと変わってるから、本人嫌がってるんだよね」


「ぷぷ、ま、また……あ、ごめんごめん、で、ちなみになんて名前なの?」


「えっと亀井(仮名)衣明花」


「いめか?」


「うん」


「うーーん、そんなに変じゃないんじゃない? ドキュンでもないし」


「えっと……続けて読んでみて」


「亀井(仮名)衣明花」


「かっこ仮名は、はずしてええええ」


「あははははは、えっと亀井衣明花」


「かめいいめか……ああ、回文ね……まあそんなに変でもないし」


「本人は気にしてるんだもーーん」


「あははは、それで、私のクラスの妹さんなんだっけ? でもうちのクラスに亀井なんて名前の人いたっけかな? ああ、名字が変わるんだっけ?亀井(仮名)さん」


「もーー、えっとね、なんか色々あって親戚の家の名前なんだけど、もうじき戻るんだって」


「へーー、だから仮名なんだ」


「うん」


「別にもうじき変わるなら仮名なんて言わなくても、それでなんて名字になるの? また回文だったりして」

 亀井田さんだったらまた回文だしね、親戚ならあり得る……かな?。


「えっとね、確か……日下部くさかべだっけかな?」


「え? く、日下部!!」


「え! ど、どうしたの?」


「うちのクラス……さっき言った中学からの腐れ縁の子の名字……日下部だよ」


「あ!」


 そうか……私に妹が出来たの知ってるはずだ。


 これで……いよいよ私と天音の事を隠しきれないって事が分かった、さあどうするか……



「ところで…………朋ちゃん、その日下部さんとの関係、中学の頃からきっちり聞かせてね、包み隠さず! 全部!!」


「…………」


 この後、天音に私と縁との関係をたっぷりと事情聴取された……ううう学校で家でもかよおおおおおおおお。


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