第36話「良き出会いに良き竿あり(買っちゃったみたいです)」
「由紀ちゃん、もう選んだんだね。さすが早いね。何買ったの?」
悠がにこやかな顔をした笑みを浮かべ、声をかけてきた。由紀はコクリとうなずくと、さっきまでの出来事を話した。
「悠のお父さんにおすすめされてさ、安かったしつい買っちゃった」
「そうなんだ……。あのリールと竿買ったんだね。うん、いいと思うよ」
由紀の話を聞いた悠は目を逸らしながら言う。もしかして本当に呪いのアイテムだったのだろうかと再び不安になる由紀。
「え?やっぱり、あの竿不良品とか?まして呪いのアイテムなの?ねえ、目を見て話してよ」
由紀は手で悠の肩を揺らしながら語り掛けるが、悠は目を合わせてくれない。息を一回吐いてから、悠は由紀の質問を答えた。
「ナンデモないよ。ナンデモ……、パパが竿を……、いや、うん、何でもないよ。まして呪いのアイテムなんてそんなのではないから!価格的にも一万円では買えない商品だからいい買い物だと思うよ」
悠は額に汗を掻きながら「まあまあ」と言いながら由紀を落ち着かせる。
悠の棒読みが余計怪しい。それに何かを言いかけたのも気になる。モヤモヤ感が残る中、安くていい買い物したと思う、そう思うしかないと由紀は納得するしかなかった。
そんな中、ゆんの姿が見えた。竿とリールを選んだのか、手に持ち、レジ近くにいる由紀に近づいてくる。
「由紀ちゃーーーん!もう購入したんだ!あ、エメラルダス買ったんだね。約束覚えててくれたんだ。嬉しい。あたしはこの竿とリール買うことにしたよ」
竿とリール共に、黒ベースでピンク色が施されている物だった。とてもカッコよく、どことなく、可愛いと言いたくなる商品で、高級感漂うものだった。
「ゆん、これって、釣り雑誌で見たことある!手に持ってるってことはもしかして?」
「ふふん、一目ぼれだったよ。ダイワの紅牙シリーズの竿とリールだよ。なにより可愛さを重視したよ。由紀ちゃん!」
「いや、でもこの竿とリールってタイ用じゃないの?竿にもタイラバ用って書いてあるし」
由紀は目を見開きながらゆんに言うが、ゆんは竿とリールを離そうとはしない。
「もう気に行っちゃったんだもん。悠ちゃんからも色々と使えるって聞いたし、まして、タイだけじゃなくて青物や太刀魚とか、ましてジギング、イカ釣りでもイケるって聞いたんだから大丈夫だよ」
「そうなんだ。まあ、私が買うんじゃないから別にいいんだけど。それでいくらにしてくれそうなの?」
由紀の言葉にゆんは「ふふん」と鼻を鳴らす。ゆんのテンションが上がっていくのが分かる。
「三万六千円から、三万二千円になったよ。それにPEの糸もつけてもらったよ」
ゆんのドヤ顔を見ながら、由紀はふと鼻から鼻血をだす。あわあわとポケットからポケットティッシュを取り、鼻に詰めた。
「さすがお金持ち!お金があるお嬢は違うね」
正直羨ましい。少し皮肉交じりな言葉になってしまったことにふと後悔するが、ゆんはそんなことは気にしてない様子だ。
「うふふ、お父様から物を買うんだったら一番良い物、欲しいと思うものを購入しなさいって言われててね。結局安いのを買っても、使っていくうちにその上の物が欲しくなるんだって」
ゆんの言葉に由紀の胸に何かが刺さる。ただ、今の現状から、真似することは出来ないので、その思いを喉からお腹の中にゴクリと飲み込むことにした。
「ところで由紀ちゃんはどんな竿とリール買ったの?」
ニコリとした顔で由紀ちゃんを見ながら言う。由紀はゆんの顔を見ながら真顔で、悠のお父さんを指さした。
「商談を持ちかけられてね。エメラルダスの竿とリール買うことにしたよ。値段は六千円だったし」
「えー、凄い安いね。エメラルダスの竿とリールが六千円で購入出来るなんてびっくりだよ。どんなあくどいことをやったの?もしかして、悠のお父さんの弱音でも握ってるの?」
ゆんは目を見開かし、由紀に失礼なことを言ってくる。由紀は失礼だなと思ったが、ゆんの表情から、これは素と判断する。これぞ天然ガール可愛い奴目とふと思う。
「いや、悠のお父さんから言ってきたんだよ。弱みなんて握ってないよ。握ってたらもっと安く……、ゴホン、何でもないよ」
由紀はゆんと話をしながら、財布からなけなしの六千円を取り出した。ゆんも財布から三万二千円を取り出し、二人はレジが置いてある机にお金を置いた。
悠のお父さんは「毎度あり」と言いながら、そそくさとラッピングを続けていく。悠はレジにお金を入れると、ニコリと二人に微笑みこむ。
「今日はありがとね。貴重な売り上げになったよ。今日帰ったら釣り行っちゃうかんじ?」
「うーん、行きたいね。でもどうしよう。糸もメンテナンスもしたいところだし、今日はそのまま家に帰るかな。もう夜も遅いし」
由紀は悠の誘いに、本当は行きたいながらもうずうずとしながら断りを入れる。ゆんも自分もと言うように、うんとうなずいた。
「そっか。それじゃ明日もし釣りに行くんだったら言ってよ。買った竿は優秀だから、イカでもアナゴでも出来ると思うからさ。あたしもちょっとストレス発散したいからね」
悠はウインクしながら、由紀とゆんに言った。
「うん。行こう。潮の流れとか見たいから、今日の夜ぐらいには連絡するよ。準備もしないといけないしね」
由紀は悠に向かって、親指を立てて応える。ゆんも「是非行こうよ」と気分を最高潮にしながら悠に伝えた。
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