第27話 VS冥竜アポピス➆

 マラソン班が雑魚敵を釣り、アポピスへの道を開く。

 あ、KY君だ。久しぶりな気もするし、二度と会いたくなかったような気もするし……う~複雑だ。

 撫子さんがアポピスへ挑発。一応の注意喚起。廃神集団だからといっても、いや、だからこそ手を出す可能性もある。基本、血の気が多い人達だし。


【冥竜が四度咆哮した後、散弾を吐いて、KY君のコメント変化を確認するまでは、絶対に攻撃不可です! 万が一攻撃したら、即座に撤退。立て直します。あ、攻撃した方、裁判前にミネットさんが廃教会裏へ呼び出しをかけるそうですので、気を付けてください。明日の御仕事や、学校行けなくなると思います。御留意ください】


 「了解!」「はーい」「あいあいさー」「……鬼軍曹と二人きり」「ざわざわ」「密室処刑。今ここに、新たな言葉が!」「嫌だ! 廃神はいいけど、リアルで廃人になるのは嫌だぁぁぁ」「おい、侍。ここは見せ場じゃないのか?」「断るっ! 某には帰りを待つ者がいるゆえ……」「俺、この前、その場にいたんだけどさ、わーお、おまえはだれだー」……皆さん、和んでいるようで何よりです。


『ナオさん? そんなに、虐めてほしいんですか? 仕方ないですね』

『い、嫌だなぁ。場を和ますジョークですよ』

『へー』


 怖っ!

 モーションで蹴ってくるし。やめて、ナオを虐めないでっ!

 そうこうしている内にも、アポピスが次々を状態異常攻撃を繰り出してくる。

 が――


「ち、ちょっと、ナオさん達だけ、違うゲームしてない? これ、何時から喰らった瞬間に状態異常を治療する勝負になったの???」

「今のところ、ナオさんが七割。私と皐月さんが五分五分ですか……忌々しい小人ですね。私、知ってます。そーいうのをちーとって言うんですよね?」

「ナオさん、そんな……」

「酷いっ。何も不正してませんよ!? さ、皐月さんは撫子さんのHP回復をナオよりしてくれてますし、ミネットさんは本職違うじゃないですか」

「……撫子さんも上手くて、陰陽師の存在価値がぁぁぁ。どーせ、どーせ、私はいらない子なんだぁぁぁ。やっぱりここは、え、えっちなのに走るしかっ! 和装だしっ!!」

「あーあーずっるいっ! それは、踊り子である私の専売特許なんだからねっ!!」

「ははは……」


 これ、一応、現段階で最難関ミッションとされているんだけどな。

 まぁ、チャットしつつも、みんなそれぞれ仕事は完璧にこなしている。

 僕と皐月さんがメインヒーラー。状態異常回復も行いつつ、KY君も注視。

 踊り子さんとミネットさんは全体支援。僕以外は、廃神装備なせいもあり、MPがまったく減っていかないのはこの二人がいるから。

 陰陽師さんは、撫子さん補助。主に、身代わりを切らさないようにしている。

 そして、メイン盾の撫子さん。

 今、僕はちょっと感動している。噂には聞いていたし、五名から支援を集中されているとはいえ……まさかこれ程とは。

 このゲーム、盾装備キャラを扱う人が初めに選ぶ理由の一つに『シールド防御』という、スキルがある。

 これは、読んで字の如し、敵の攻撃を受けた瞬間、それを盾で受ければダメージを軽減する、というものなのだけれど……例によって、オートとマニュアルが存在する。

 大多数……というか、九割九分が普段はオート。この場合、完璧に受ける可能性は高くないものの、確実に一定確率で被ダメを低減出来る。

 片や、マニュアルは受ければ完璧。被ダメは大幅減。受け損ねれば、そのままで大ダメ、となる。つまり、集中力と勘の勝負。

 考えてみてほしい、一々全ての攻撃をマニュアルで受けていたら、絶対に神経がもたないし、タイミングも『鬼畜』『クレイジー』『開発部の憂さ晴らし』と形容される程シビア。なので、前回はさしもの撫子さんもオートだった。

 けれど、今回は――KY君の台詞が進んでいく。


「これで三つ……あと一つ、あと一つだ。でも、次の攻撃は……」


 もう少しだ。まだ、アポピスのHPは1mmも削れていない。アタッカー班は既に全員が武器を構え、今か、今かな状態。

 さっきから、チャットで『まだかー』とか『全員で殴れば……殺れるっ!』とか、『はぁはぁ、早く、早く、早く、殴りたいよぉぉ……』とか……この人達、血に飢え過ぎてると思う。

 撫子さんが、目の前で盾を上げ下げしている。

 都度、HPが減るものの『盾』のエフェクトが発生――今のところ、全てで攻撃を受けきっている。

 なので、僕と皐月さんは全般的に手持ち無沙汰。時間回復魔法で事足りている。ミネットさんも加わって、熾烈な状態異常回復速度勝負中。撫子さんに、薬品は使わせないっ!

 

『ナオさん、早過ぎです……(>_<)』


 皐月さんからチャットが来た。

 戦闘中は初かもしれない。何となく可愛らしいなぁ。


『僕よりもミネットさんが変なのです。あの人、詩人ですから……ね』

『そうですね……はぁ、自信なくなります。PVPばっかりやってたからでしょうか。今度、良ければ教えてほしいです』

『……ナオさん、ちーとはいけないんですよ? 反則なんですよ?? 撫子さん一人が盾だからって、張り切り過ぎていませんか???』

『僕で良かったら喜んで』

『誤爆です』

『僕で良かったら喜んで。すぐ、抜かされちゃいますよ』


 さてさて、戦況は。お、そろそろ――ミネットさんが、ナオに近づいてきて、執拗にキックのモーション。戦闘中、戦闘中ですからっ!

 アポピスが、四度目の咆哮。



【ここからが本番です! アタッカー班、戦闘準備を!! マラソン班、きっと、何かありますが、死んでも耐えてくださいっ!!!】 

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