第14話 白魔な非日常その④

『☆勝者 ナオ☆』


 画面上の文字が躍る。

 はぁ、やれやれ……何とかなった。久しぶりだったけど、覚えてるもんだなぁ。自転車の乗り方を忘れないのと同じかな? 人間って凄いや。


《さっすがーナオ! ま、大分、鈍ってるみたいだけど!》

《公衆の面前で鈍ったとか……》

《ナオさん! 凄いです!!》

《ナオっち~! かっくい~。愛してる~》


 取りあえず、倉のキャラは殴っておこう。そうしよう。

 撫子さんと――いつの間にやら近くに来ているフジさんには、ナオの頭を下げさせる。ありがとうございます。

 お、負けた長銃士の人が蘇生した。PVPは、負けた後、自動で蘇生される仕組みになっている。

 実装当時はこれを悪用した人もいて、瀕死状態の時にわざとPVPをして死に、即蘇生というゾンビ戦術が採用された事もあった。

 今は、ミッション中やモンスターとの戦闘中では出来ない仕組みになっているから当然、そんな戦術は使えないけど。

 倉が口を開く。 


《で――ガルド、文句はねぇな?》

《……あ、あんなの装備のせいじゃないですか! チートですよ、チート》

《ちっ……てめえ、何時からそんな小せぇ男に成り下がったんだ? てめえは負けた。真正面からカスジョブと罵った白魔術士に。それ以外の事実が何処にある? チート? たとえ、普通の片手杖装備でも勝てねぇよ。お前、これがゲームだからって、何処かで舐めてるだろ?》

《倉、そこらへんで。えーっと……僕は参加しても良いですかね?》

《……好きにしろや。俺は》

《ここで逃げたら、てめえは何処へ行っても逃げるようになる。逃げんな》


 おおぅ……この人、どうしてゲーム内だとこんなに男らしいのか。リアルはあんな感じなのに……。

 周囲で固唾を飲んでみていたギャラリー達へ撫子さんが告げる。


《さ、皆さん。そろそろ、時間が迫ってきました。準備をお願いします。一点だけ。ナオさんは既に売約済みです。それでも、ちょっかいをかけたい方は私か、ミネットさんへお申し出ください。では、私もキャラを切り替えます》


 おっと、いきなり不穏当な発言がされたような気がするんですが、それは……。

 ……ナオ、君、買われていたらしいよ?


【うわ……マジかよ……】

【今なら、嫉妬で、貴方を……あ、でも一回パーティ組みたいでーす。よろしくー】

【二大巨頭の持ち物で、倉&フジとも知り合いか。あれ? 化け物じゃね?】

【ドSコンビに嬲られる白魔小人……いけるっ!】

【誰が、ドSですか。ドSは撫子さんだけです。こんばんは。どうやら、私のナオさんが御迷惑をおかけしたようで】


 ほぉ……満を持しての御登場ですか、そうですか。

 ナナちゃんもとことこ近付いてくる。


『ナオ先輩! 勝ったんですか!?』

『こんばんは。うん、何とかね』

『す、凄いですっ。凄すぎますっ!』


 ぴょんぴょん、とキャラが跳ねる。可愛い。

 やっぱり、ゲームって操ってる人の性格が出ると思う。つまり、ナナちゃんはきっとリアルも可愛いのだ。

 ……それに比べて。


『はぁ……まったく、まだ勝たないでください、とあれ程お願いしたのに。どうして、勝ってしまっているんですか? これだから、ナオさんは』

『ひ、酷いっ。一生懸命、死力を尽くして廃人さんを倒したのに……』

『はぁ? 貴方が負ける筈ないじゃないですか。むしろ、私に動画を撮らせないように、超短期決戦で倒したのでは?』

『ハハハ、ソンナマサカー』


 この天使様、怖い。キャラ自体は本当に、奇跡とも思える造形美なのに。

 中身がこれだもんなぁ……。


『……今、とても失礼な事を考えましたね?』

『いいえ、別に』

『まぁ、いいです。取りあえず――おめでとうございます。罰として』

『罰!?』

『ああ、間違えました。ついいつもの癖で、ミネット、うっかり』


 思わず、画面から目を背ける。

 ……罰が自動変換で出て来るって、あなた。


『ご褒美として、私のパーティに入れてあげます。嬉しいでしょう?』

『撫子さんがいいです』

『またまた。そうやって照れなくていいんですよ。ほら、素直になりましょう。なるべきです』

『百歩譲って、倉がいいです』

『倉さんはアタッカー班。白魔が入る余地はありません。はい、では、誘いますね』


 ああ、はいはい。仕方ないなぁ……。

 パーティに加わるボタンを無意識に押す。

 ――ん?


「あれ? 撫子さん?」

「はい。今日はよろしくお願いします」

「僕は、ミネットさんパーティだと聞いていましたけど」

「私のセカンドキャラをそちらへ回しました。もう、編成が進んでいる筈です」

「誰が操ってるんですか?」

「私の友人です。上手ですよ。さっきも一緒にナオさんのPVP見てて、二人で、きゃーきゃー、叫んでしまいました」

「なるほど」


 どうやら、直前で編成変更があったらしい。

 白魔と召喚の交換ということは、回復・防御・魔法アタッカーをこなせる召喚士をミネットさんと組ませて、汎用性を高める戦略か。一理ある。

 まぁ、ソロでも、と思っていた位だからパーティに入れるだけでも有難い。ソロだとどうしても、参加メンバーの状況を把握するのが遅れるし。

 後は……。


『ナオさん……裏切りましたね……これは御仕置が必要です……』


 隣で、PVPを申し込んできている怖い詩人様をどうやってなだめるかだ。

 ……あれ? 撫子さん、ミネットさんにも相談なく入れ替えたのかな?

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