夢見がちな園 〜続・僕の頭痛のタネたち〜

ウサギノヴィッチ

 海に来ていた。

 もう季節は終わっている。だけど、まだ日差しは強く、頑張ればひと泳ぎできそうな感じである。

 だれかと来ている。サンダルが隣に置いてあるし、バッグも置いてある。ただ、それらのブツからだれと来ているかは判別できない。というか、基本的に僕は知り合いのファッションに興味を持っていない。

「こっちおいでよー」

 聞き覚えのある声が波打ち際の方からする。でも、だれかは判別することはできない。女性だ。

 あー、いつからだろう。僕の周りにはめんどくさいくせに、高スペックの女性がいる。女運は良くない方だと思う。平和に暮らしたい。そんなことをここ一年くらいで思うようになった。

 平和というのは、だれにも心を乱されないということだ。自分の部屋でゆっくりと動画を見るくらいの環境は欲しい。今はそれさえも保証されていない状態なのだ。

 僕は常に緊張状態にある。

 二十歳の男がこんな状態でいいのか。

 同世代の男性から心配されるだろう。いや、僕の環境をいったら、逆に嫉妬されるかもしれない。めんどくさい、めんどくさい。

 僕は全方位的に敵しかいない。この状況はどうなのよ。きついよ。助けてよ。

「早く早くー」

 なにか見せたいものでもあるのか、僕のことを急かしてくる。彼女然としているのが珍しい。そんなキャラクターが僕の周りにいたかどうか怪しいところだ。

 僕は仕方なく立ち上がり、ズボンについた砂を払い、女性のところに近づいていく。逆光で、彼女の顔は見えない。

「これ見てー」

 彼女は海の底から何かを拾って僕に見せてきた。

「海鼠」

 彼女の勢いが良かったのか、海鼠が僕の顔に当たっている。柔らかい。少し暖かい。気持ちいい。このままクッションにしてしまいたい。

 そこで異変に気付く。

 おかしいぞ。海鼠がこんな温かいはずがない。しかも、海からとってきたやつを触っているのに顔が濡れている気配がない。おかしいぞ。

 まさか。

 僕は思い切って目を開けてみた。

 そこには、推定Eカップのおっぱいがあった。

 そして、その持ち主は、服村ミズキこと国民的アイドルの福浦瑞稀ふくうらみずきだった。

 僕はまさに血の気が引く思いがした。殺される。マジで。っていうか、なんでこいつと一緒のベッドで寝てんだろ。わけわかんね。

 とにかく。

 時計を確認する。月曜日の朝八時。ちょうどいい時間なのかもしれない。

 変なことで既成事実作られたら、僕の人生が詰んでしまう。早くこの場を収める為に部屋を出ていく。

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