♯04

「だからさぁ…アタシ言ったよね?あの剣を渡す時に。アタシの術式勝手に弄らないでって。」

「……はい。」


こんにちは。皆さんお馴染み、機械人形のセインです。僕は今、“魔術学院アーティファクト研究科“の地下研究室、僕が“起動”された部屋にて、僕を“起動”した張本人であるマリー博士に怒られています。


博士が怒っているのは、僕が、博士謹製の最先端術式に、好き勝手に手を加えてしまったこと。


そう、今から六二時間三二分前に遭遇した通称“へなちょこ冒険者”達の前で使用したあの術式、特殊直剣術式之一 (仮)、〝心意の伸剣〟は、元は博士渾身の術式だったものを、僕 (とガラハット)が勝手に改良したものだったのだ!


「何だか面白そうな術式だったので手を加えてしまいました。後悔も反省もしていません。」

「いや、反省くらいはしようよ?」

『否定。』

「「?」」

『当機、機体名称ガラハットの術式改竄への関与を否定。』

「あ、逃げた」

「ちょっとぉ?ガラハットに嘘は吐けないのよ?セイン、貴方ガラハットに罪を着せて逃げようとしてるんじゃあないでしょうね?そんな子は解体バラしちゃうよ?」

「いや、今それされたの僕…って、解体は勘弁してくれませんか?」


そんなこんなで、コントのような会話をしながらも、博士は僕のボディと戦闘データをチェックしている。

と、ガラハットが博士に報告分のデータを送信完了し、喋りはじめる。

ちなみにガラハットの形状は、石……一面が九つの正方形に別れており、面ごとに色の違う立方体である。ちなみにサイズは拳一つ分くらいだ。


『提案。当機、機体名称ガラハットの“収納“内に時間凍結保管されている、暴虐のダンジョンのモンスターについて。

“収納”内の容量に限界は無いものの、これだけの量を“収納“の肥やしにするのは“もったいない”と推測。ゆえに、機体名称セインの冒険者ランクを上げる事に使うことを提案する。』


確かに、あのダンジョンで得たモンスターの素材は、食べたりする必要のない僕やガラハットにとっては不要の長物で、このまま“収納”内に死蔵するのは目に見えている。


「ガラハット、その提案を承認する。」


チェックを終えた博士が答える。

かくして、僕の次なる目的地は冒険者ギルド、そしてダンジョンとなるのだった。



[魔術学院アーティファクト研究科第三地下実験室〈マリー〉]


私以外の誰も居なくなった暗い実験室で、私は一人、ディスプレイに向かっていた。


PT―02、セインの戦闘データについての報告書を読み、戦闘時の動きをモーションシュミレーターによって再現させている。


あの機体は、少々おかしい。

最初こそぎこちなく、体の使い方が分かっていない様子で戦っていたが、しばらくすると学習・最適化した動きでモンスターを屠るようになった。その時間、僅か一時間。

加えて、彼にダウンロードした基礎データは言葉や基本的なルール、魔術、世界の情報、後は適度に制限した・・・・端末情報。

だから、彼が会話の端々で見せた私達に近い反応や、意味も理解した上で使っていたと思われる慣用句、トドメに、あの剣に刻んだ術式の改良、それらを彼が使ったり行ったりするのは、異常な事だ。

彼を起動してから一週間も経っていないのに対して、学習速度が早過ぎる。


「ちょっとアタマ良過ぎなんじゃない?英雄さん。」


これは一度オーバーホールする必要が有るかもしれない…そう考える反面、彼とガラハットとの会話を思い出した。まるで、家族のような、気安い会話を。


「…不確定要素ってのも、役に立つかも。」


そう言って彼女は一人、静かに憂う。


「貴女とも、あんな会話がしたかったわ、カイネ・・・。……今、どこにいるの?」


ディスプレイの光が照らす彼女の表情は、悲しみを孕んだ言葉とは裏腹に、僅かに微笑んでいた。

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