第13話 宴の準備を~漬物は踊る~ Ⅴ

「ほう、これが材料リストか」

髭所長は鋭い目つきで材料リストを見つめている。

全く瞬きをしていない。

怖!怖い。中年髭坊主が瞬きをしないって

軽いホラーじゃないか。


「ふむ・・」

所長室には異様な緊張感が漂う中

髭所長の前で立たされている。

こんなとき無性にトイレに行きたくなる。

生理現象なんてそんなものだ。

いつも突然なんだ。出会いと一緒だ。


「んん、ソーセージか。よくもまあ・・・まあいい。

 それと無問題だと!?あの酒を知っているとはな。

 先に言っておくが、わしに小細工など通用しないから覚えておくのだな」

髭所長はギロリとこちらに睨みを利かせる。


「・・・ええ」

「道具屋、貴様えらく汗を掻いているじゃないか。

 そんなに怯える必要はないぞ!!

 直ぐに処刑したりなぞせんからな。フハハハ」

トイレに行きたいだけです。ホントに。


髭所長は材料リストから目を離して机に置く。

「いいだろう・・・用意させよう」

「そうですか」

よかった。どうやら大丈夫なようだな。


「材料が集まるなら

 できれば今夜にでも一度試食会をしたいんですが可能ですか?」

「今夜試食会だと?えらく急いでいるな」

「まあ処刑される身ですから、最善を尽くさないと」

「・・いい心がけだな」

「ただ貴様に確認したい事がある。漬物のレシピ作成は進んでいるのか?」

「ええまあ、順調には進んでいます」

「そちらは最優先事項だ。よく覚えておくのだな」

「分かってはいます。色々と確認が必要ですので

 そのための試食会でもあるんです」


「・・・・・・」

数秒の沈黙が続く。


「分かった。いいだろう」

「場所は漬物に適した場所でもある食堂を使いたいのですが」

「それについては問題ない。今夜食堂の利用時間が終わった後に開催といこうか」

「一般の受刑者は誰もいない。

 所員しかいない時間だがな、何が起きても誰も気づかないってわけさ」

そう言うともう一度こちらに睨みを利かせる。

「冷や汗がさらに増えているじゃないか!!道具屋よ!?フフフ」

「いえ、ご配慮ありがとうございます」

「そうだろう」

違うところから漏れそうです。助けて。


「では準備がありますので失礼させて頂きます」

「・・・ちょっと待て」

「なんでしょうか?」

「貴様は漬物をどう思っているのか?」

「そうですね・・・高価な品物であるとしか」

「そうか、では言い方を変えよう。不老不死についてはどこまで理解している?」

「ただの噂でしか」

「生命の力を高めて病を治す効用があると聞いたことはないかね」

「まさか」

「そうだ。誰もそんな噂を信じていないかもしれない。

 あくまで可能性だがね。しかし私は多くの漬物を集めたいのだよ」

「・・・はい」

「期待している」

「分かりました。では失礼します」

不気味な雰囲気の所長室を後にする。

全く何か狂気じみているな。あの髭所長は。

とにかく交渉は上手くいって良かった。

これで計画を進める事ができるだろう。

早速準備に取り掛かりたいところだが、そのためにはさらに協力者を増やす必要がある。

正にここからが本番だな。

そう思いながら足早にトイレに向かった。

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