第6話 絶望の独房からの反撃

「どうなんだ!」


売りさばく。何の話だ。


考えられるのは、あの漬物自体はフェイクで

壺に何か仕掛けがあり

それが本来の取引に使う物だったとか……?


いや、壺の中にあった中敷きの布が

二枚重ねだった事と関係があるのか……


なんだ??なんなんだ???


「だんまりか……」


髭所長は腕組みしながら目線を斜めにして

天井を見つめる。


そもそも漬物を食べていないのだ。


整理しよう。

相手の根拠は、チャーリー(犬)が感じとった漬物のにおいであって

それだけなのだ。


それが理由で独房行きになった。


そして、売人の疑いがかかっている。

売りさばく?何を?


分からない……


それとも

正直に言ったほうがいいのだろうか……


「布……が欲し……」

聞き取れないぐらいか細い声で弱々しく喋る。


「何だ……どういう意味だ・・・」

髭所長は、睨みつけ凄んでくる。


後悔していた。

自分はこの世界について何も理解していないのだ。


ただ同じ人型で、たまたま言語は理解できたが

相手の文化を理解していない。


価値観・ルールが分からない。


野球に例えると

ダブルプレー?

何それ?

二人でプレイするのか?

そのレベルである。


この状態では、厳密には相手とのコミュニケーションは成立していない。


髭所長が一つ息を吐く。


「おい!誰かいないか!」


「はっ」


「処刑の準備をしておけ。」


「はい、すぐに準備します。」


何人か控えている所員の一人がその場を立ち去る。


そのやり取りを聞き流し、机の一点を見つめ下を向く。


ただ、ゆっくりと思考はしていた。


生き残るために。


――ふと思った事がある。


チャーリーは、なぜ漬物に反応したのか?という事だ。


犬の本能として肉(ソーセージ)に敏感に反応したのではないか。

そして、ソーセージ君は捕らえられてしまった。


なら漬物もそうなのか?

本当にチャーリーは元々漬物が好きなだけなのか?


そんな犬がいるのだろうか?


…………


――いや、違う。

訓練されたから……分かるのだ。


一つ軽く息を吐き決心を固め髭所長を見つめる。


そして

冷静に髭所長に語りかける。


「刑執行は3日後ですよ。今更命等惜しくはないし、売りさばく必要もない。

 単に興味があっただけです。」


「ほう、いい心がけだ。で?」


「漬物そのものに興味がありましてね。」


「興味だと?」


「ぬかが深いとか塩加減とかね」


髭所長を見つめる。


「…………」


暫くの沈黙……


髭所長は

さっきと打って変わって

明らかに顔つきが変わっていく。


「貴様、何を知っている……!?」

不穏な緊張感が漂う。


「種類があるという事です。漬物には。」


「種類だと?」


「…………」


また沈黙が続く。


「ふーむ、そうかそうか」


「漬物を扱えるという事は

 貴様は【道具屋】というわけか。

 ふん、なるほどな。面白い。」


ん、どういう事だ?


「それで貴様は作れるのか?漬物を?」


「ええ、まあ」


意外な顔をしながらも危険な笑顔になる。


「いいだろう。作って貰おうか貴様の漬物を。」


「すぐにはできませんよ。漬物は…」


「…………」


――再度の沈黙


「分かった……3日やろう。そこで見せて貰おうか」


「それともう一つ、必要な物は逐一報告してもらおうか。」


髭所長が凄む。


「構いません。ただ人手がいります。

 発酵を熟知している必要があります。

 さっきのソーセージの人が適任でしょう。

 できれば協力してもらいたい。」


「……考えておこう。」


髭所長がもう一度睨みつけてくる。

そして視線を外す。


「おい、こいつを戻してやれ。」


「はっ」


……所員に連れられ囚人部屋に戻っていく。


「よろしかったので」

残った所員が髭所長に聞いた。


「構わんさ。

 成功しても失敗しても処分すれば良いだけの話だ。」


(こちらは漬物の製造方法さえ分かれば良いのだからな。)


「それに……奴は気がついていないだろうが

 結局の所、刑執行の日程は変わってはいないのだから……」


 髭所長はほくそ笑む。

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