第34話

 カオリさんはメイド服のまま家の前に立っていた。


 俺たちが近づいても玄関の前から一歩も動こうとしない。まるで、何かを真剣に考えていて、俺たちに気が付いていないかのようだ。


「えーと……。カオリさん…?」


 そっと、手で肩を叩くと、ピックッと驚いた。どうやら本当に、俺たちに気が付いていないようだった。


「やっと帰ってきましたか。遅かったですね」


 まぁ、買い物によって帰ったし、少し遅くなったかもしれない。そんなことよりカオリさんがちょっと冷たい気がする。


 そして彼女は、どうして俺の家を知っていたのだろうか、なぜ、俺の家にわざわざ訪れているのだろうか。


 凛だったら何か知っているかもと思い、目線を送ってみたが、凛は首を左右に振る。どうやら凛でさえ、なぜ彼女がここにいるのか理解していないようだった。


「えっと……。どうして、ここに……?」


「それは中で話しましょう。あなたたちが、なかなか帰ってこないので疲れました」


「……。はい……。」


 小百合先輩と由衣は、俺の隣にいたが、あまりにも重い空気のせいか固く口を閉ざしている。できれば、フォローしてほしい。




 とりあえず、家に上がっていただき、リビングのソファーに座ってもらった。カオリさんは一言もしゃべらず、ただ軽く頷くだけだった。


 小百合先輩と由衣は、この重たい空気から逃げる様にキッチンに鍋を作りに行った。できれば、一緒にいてほしかった。凛と俺だけでは心細い。


「で? 何なの?」


 凛は少しイライラしているようだ。まぁ、疲れているし、仕方がないのかもしれない。



「今回の事件について大切な話をしに来ました」



「大切な話?」

「ええ。ある意味この事件の核心をついているかもしれません」


「なんで、あんたがそんなこと知っているのよ!? あんたは、ただのうちのメイドでしょ?」


「ええ。ただのメイドです。ですが。メイドでありながらもう一つ大切な業務も行っています」


「大切な業務……?」




「はい。私は松田家の経営コンサルタントです」

「「……は?」」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る