第29話

 俺は小百合さんを連れて自分の部屋のドアを開ける。部屋には黙々と小説を書き続けている凛がいた。どうやら、集中していて俺たちが中に入ったことも気が付いていない。


「誰だ? あの少女は? 君のもう一人の妹か?」


 なるほど。そういう考え方もあるのか。いっそのことそうしといた方がめんどくさいことにならないかもしれない。 


「妹じゃないです。彼女は凛さん。今日からこの家に居候することになっているんです」


 後ろからビクビクしながらついてきた由衣がそう説明する。あーあ。言っちゃったよ。


「なに!? い、い、居候だと!? 智樹君、彼女とはどういう関係なんだ!?」


 小百合さんは目をクワっと開けて迫り寄ってくる。こ、怖い……。


 俺はここまでに至った経緯を小百合さんをなだめながら話した。



「つまり、彼女が君が恋している松田凛ということか。そしてなぜか私たちは会っているはずなのに彼女の事を覚えていないと…」


「そういうことです…」


「信じられない話だな。そんな非現実的なことが起きるはずがない」


 ですよねー。そういうと思っていました。


「だが、智樹君が言うなら、私は信じよう。私は君がこんなしょうもない嘘をつく人ではないと知っているからな」


「……え? 本当ですか?」


 そんなにすんなりと受け入れられるものなのか……。何か裏があるのかもしれない…。


「その代わりと言っては何だが……、私も君の家に居候させてくれ!」


 なるほど。そういうことか……。


「それは無理です」


「なぜだ! なぜ彼女みたいな頭がヤバい小学生はよくて、私はダメなんだ!」


 すごい本音が出ている!


「ちょっと! 何が小学生よ! 今まで大人しくしていてあげたけど、もう限界だわ! 私は高校3年生よ! あんたなんかより年上なんだからね!」


 突然凛が怒り出す。彼女は『小学生』と呼ばれたのが気に食わないらしい。『頭がおかしい』と呼ばれたのは気にしなくていいのだろうか。


「ほら見ろ! やはり頭がおかしいではないか。こんな容姿の少女が私より年上なわけあるまい! どう見ても小学生ではないか!」


「グヌヌ……」


 なんかこの会話聞いたことあるな。どうやら彼女たちは相性が悪いみたいだ。


「あの……。小百合さん、凛さん! こんなことで争わないで、今は落ち着いて今後の事を考えた方がいいと思うんですけど……」


 冷静な妹の一言でその場は一気に静かになる。なんでだろう。由衣には人をまとめるという力でもあるのかな。


「そ、それもそうね…」

「だけど、どうすれば……」


 みんないっせいに悩む。それもそのはず。こんな事一回も経験したことないから、みんなどうすればいいのか分からないのだ。


 そして、妹は本当に優秀だなと改めて感じた。妹はそんな俺たちを見てこういった。


「凛さんの家に行くしかないんじゃないんですか?」


 まったく、その通りである。なぜ今までそのことを思いつかなかったのだろうか。

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