永訣の弾丸-The bullet of accomplice-

いかろす

プロローグ

 窓から見える空は、未来を占うみたいな灰色をしていた。

「わたしたち、別れよう」

 別れ話というやつは、往々にして気分が悪いものだ。わたしが今行なっているこれも、言わずもがな。ましてや、裸の女二人が、ベッドの上でする話でもないだろう。でも、ここしか、このタイミングしか、考えられなかった。

 告げる方も、告げられる方も、辛い。現に、後者である彼女――レイは、驚きに目を丸くしていた。

「……ちょっと待ってよリサ。あたしら、上手くいってたじゃん」

「上手くとかそういう問題じゃ、ないんだよね」

 言い出しづらくて、俯いてしまう。レイの顔を見るのが、少しだけ怖かった。

 この世界には、抗えない法則みたいなものがあるのだ。人間は、そういうものに縛られながら、頑張って生きていくしかない。どれだけ痛くても、耐えねばならない。

「なんでだよ! あたしは、こんなに好きなのに」

「わたしも好きだよ。レイ以外の人との恋愛なんて、もう一生考えられないもの」 

 自分の口から吐き出される言葉が、己の心を突き刺す針と化す。ああ、痛い。愛しくて、こんなに痛い。

「じゃあ!」

「わたしの家がどういうところか、知ってるよね?」

「もちろん。それがなにか関係あるの」

「ダメなんだよ、恋愛」

「えっ」

「カタギは連れていけない。それが、ルールだから」

 失望されたくない。この程度の女だって、思われたくない。

 ない気力を振り絞って顔を上げる。その瞬間、レイに強く抱きしめられた。

「……なにも知らないヤツが作ったルールなんてクソくらえだ! リサ、あたしと逃げよう。どこでもいい。どこまででも!」

 答えられなかった。どこまででも逃げたかった。甘美な欲求が、決意を蝕む――が、寸前で踏みとどまる。わたしは、もう揺らがない決意をしたのだから。

「そうまでして、なりたいの? あたしを捨ててでも?」

「……違う。違うの。わたしたちのためなんだよ、これは」

 涙があふれて、止まらなかった。外は、雨が降り出していた。

 これからもレイといられる方法を模索したけれど、とうとうそれは叶わなかった。なぜなら、レイはわたしの前から姿を消したから。

 あれから、恋愛はしていない。最後のベッドのぬくもりを、忘れたことはない。

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