第3話『栄光を放つ騎士の剣』
「ジャンヌ…なのか?」
「はい。マスター」
目の前には、騎士のような中世の甲冑をその身につけて、長い金髪を腰まで伸ばしているジャンヌがいた。
青色の大きな眼とその白い肌は、その美しい金髪と相まって幻想的な美しさを醸し出している。
「マスター、『
「お、おう!」
ジャンヌを見て呆けていると、突然の指示が掛かり急いでスマホを持つ。
LRの武器は、ジャンヌの様にキャラクターとして出てくるが、それ自体、装備することが出来る。
案の定、装備の画面には輝く『
すると、急に右手に軽い重量がかかる。
「これが、本物のエクスカリバー…!」
「マスター。周りからゴブリンの群れがまだ襲ってきます。そのエクスカリバーで。」
「分かってる!」
俺の右手には豪華な装飾がなされた、刃渡り1メートルほどの長剣が握られている。
俺を襲ってきていた周りのゴブリンの半分は既に死んでいる。多分、ジャンヌが一瞬で殺ったのだろう。
そのあまりの強さに残りのゴブリンたちは驚いて動きを失っている。
「ぎ…ギギャア!」
先程指示をしたリーダーと思われるゴブリンが、我に戻り声をあげる。すると何匹かのゴブリンが動きだし、つられて周囲も動きだした。
「マスター、しっかりと動きを見るのです」
「あ、あぁ」
緊張から汗が流れる。
しかしさっきまでの孤独感や焦燥感はない。俺にはジャンヌがいて、右手にはエクスカリバーがある。
「「「ギャギャ!!」」」
三匹のゴブリンが一斉に飛びかかってくる。
が、見える!
「ここだっ!」
三匹の動きを完全に見切り、それぞれの脇腹を切り捨てる。ゴブリンは飛びかかってきた勢いのまま、地面に落ちそのまま動くことはなかった。
「ギギャ!?」
「これは…エクスカリバーの力だな」
エクスカリバーにはジャンヌの加護が付いていて、能力値を底上げしてくれる。攻撃力や素早さを中心に全ステータスが高くなるのだ。
お陰でゴブリンたちの動きがまるわかりだ。それに体に翼が生えたかのように体が軽い。一瞬で相手を切ることができる。
「どうしたよ?さっきまでの威勢はどうした?」
「ギギギ……」
形勢が逆転し、リーダーらしきゴブリンを挑発する。ゴブリンは悔しそうな声を出してこちらを睨む。
「マスター。気を抜いてはいけませんよ」
「分かってる。常に冷静でいるのが俺のポリシーだ」
「ならいいのです」
俺はジャンヌと軽く話すが、視線は絶対にゴブリンから外さない。
「ギギ…ギギャア!」
ついに堪えきれなくなったのか、ゴブリンが叫び、周りのゴブリンが全員、一斉に飛びかかってくる。
どうやら数で押すつもりらしい。だが、俺にだって策略はある。さっきまでの木の枝とは違うエクスカリバーなら、いくらでも打開できる!このゲームは武器が物を言う世界だからな!
「マスター、いつものを」
「おうっ!」
俺はエクスカリバーの柄を右手に掴み肩まで持ち上げ、左手を広げて右手に添える。
この体制から打つエクスカリバーのスキルがある。ゲームでも最強レベルと称された範囲技だ。
「『
すぅっと息を吸い、全力で切り払う。
ただの斬撃、しかしそれは竜を纏い、辺りを食らいつくす。
数秒後、周りには大量のゴブリン
「お見事です」
「おう…て……うわっ」
労いの言葉をかけてくれるジャンヌに軽く返すと、直後にとてつもない疲労感が襲ってきてその場に倒れる。
「スキルの影響かな…あはは」
「副作用ですね。お疲れ様です、マスター」
ジャンヌは僅な笑みを浮かべて手を出してくる。えっと、掴めばいいのかな?
「よいしょ」
「さすがマスター。こちらの世界に来ても冷静なのですね」
ジャンヌは手を握ると持ち上げてくれて、俺は立ち上がる。
やばい、さっきまでは戦ってて必死だったから何も考えなかったけどジャンヌめっちゃ可愛い!!
「えっと、あ、ありがとう。はは」
今までこんなに綺麗な人と話すことなんてなかったから、動揺してうまく話せない。
「悪いけど少し休んでも良い?」
さっきのスキルの影響で疲れてしまい、しばらく休憩させてもらう。今は木にもたれ掛かっている状態だ、
「あ、ていうか、ジャンヌは俺が異世界に来たの知ってるのか?」
「はい。そのすまほ?という機械から見ていました」
「そ、そっか」
あれ?もしかして今までずっと見てた?さ、さすがにあのゴッドちゃんが出てきてからってことだよね?その前から知ってるなんて…
「私を引いて頂いたときから、ずっと。一方的にですが見ていました」
「マジかぁ……」
はい分かってた。分かってました。
じゃあもう知ってるんだよね…俺がジャンヌを見てうへへとか笑って頬擦りしてたのとか……いやでも仕方ないじゃん!可愛いから仕方ないじゃん!
「その『マジかぁ……』というのも口癖でしたね。ガチャをする度にそう言ってました」
「なんか恥ずかしいな…」
ジャンヌは我が子を慈しむかのように俺に笑いかける。
うーん、これは恥ずかしい。なんというか、心地悪いような心地良いような、不思議な感覚だ。
「ではこれからどうしますか?」
「どうするって?」
「今は森のなかです。良ければ近場の町に案内しますが」
「あ、場所が分かるの?」
「はい。入ったことはありませんが、道は分かります」
「へぇ、どうして?」
「私の『索敵(ソナー)』で人が密集しているところが分かりますので」
「そんな能力もあったな、じゃあよろしく頼むよ」
するとジャンヌは分かりましたと言い、こちらに背を向けて歩き出す。
本当にG2Wの世界に来てしまったんだな。ジャンヌを見てると、そう確信付いてくる。
さっきまでの戦闘も痛みも、夢なんかではあり得ないほどにリアルだった。
「そういえば、ゴッドちゃんのことは知ってるのか?」
「ゴッドちゃん?」
「ほら、薄い布を着て頭に花のわっかを着けた少年だよ」
「あの方ですか。はい。一応。」
「そうなの?」
「はい、私をマスターと会わせてくれた方ですから」
「ふぅん?そうか」
よくわからないけど、まあいいや。俺もジャンヌと会えて嬉しいしな。これからの1年間、ずっと一緒にいられるしな
「ところでマスター」
「なんだ?」
不意にジャンヌが振り向かずに話しかけてくる。
「いつものように頬擦りはされないんですか?」
「…………はい?」
おっと?不思議なことを言いますねこの子は。
出来るわけがないでしょう!今までだって誰も見てないと思ってやってたのに!
ていうかやっぱり知ってたんだな!?まさか張本人に知られてるとは思わなかったよ!嫌われてないか気が気じゃないよ!?
「いえ、ですから。いつものように私に頬擦りを、熱い頬擦りをされないんですか?」
「えっとぉ…」
やばい、心理が読めない。ジャンヌはもしかして俺に頬擦りしてほしいのか?いやまさか。俺は別にかっこよくないし、普通の人だ。ジャンヌのような美人に好かれる理由がない!
でも好きでもないやつに自分から頬擦りしないのかなんて聞かないよな!?でも俺がジャンヌに好かれることなんて…一体どっちなんだ!?あぁ憎い!今までずっと頬擦りしていた自分が憎い!
「今はやめとこう…かな?」
「…そうですか」
ジャンヌは俺の前を歩いているので、その表情は伺えない。今どんな表情をしているのか、嬉しいといった表情なのか、安心した感じなのか。それとも残念そうに…なわけないか?
俺は前を歩くジャンヌを見つめながら、森から進んでいくのだった。
●
数分も歩けばすぐに森から抜けた。
森から抜けると目の前に町の入り口がある。ゴッドちゃんは本当に町の近くに俺を送ってくれたらしい。
一体何者だよゴッドちゃん。
「着きました」
ジャンヌが入り口の前で立ち止まり、振り替えってこちらを見る。
うーん…本当に美人さんだな。西洋美人といった感じか。大きい瞳に高く綺麗な鼻筋。洋画もたまに見るが、どんな役者さんより可愛いと言える。
「どうしました?」
「あ、いやなんでもない!」
じっと見つめているとジャンヌが不思議そうに首をかしげる。
くそぅ!その一挙手一投足が可愛いです本当にありがとうございました!
「すこし…照れます」
「あれ!声に出てた!?」
「はい」
ジャンヌがすこし顔を赤くして恥ずかしそうにする。あわわわ…おらの好み一直線だ。結婚してほしいだす。
「あの、イチャイチャしてもらえないでくれます?」
すると入り口で待機していた兵士さんが待ちきれないといった感じで話しかけてくる。これは申し訳ない。
「あ、すみませ」
「私とマスターの会話に入ってこないでください殺しますよ?」
「ちょっとジャンヌさんっ!?」
謝ろうとした瞬間にジャンヌが不機嫌そうなオーラを出す。左手には『
そんなことしちゃダメだぞ!?そのエクスカリバーってホントに人殺せちゃうくらい鋭いからね!?
「じゃ、ジャンヌ?人に迷惑かけちゃダメだよ?」
「すいませんマスター。つい」
「うん、ついで人を殺そうとしちゃダメだ」
ジャンヌはショボーンと背景に書かれそうな感じで俯く。
えっと…なんだろうな。少し可哀想だから、あとで何かお願いでも聞こう。
「あ、あの……いいでしょうか?」
「すみません!どうぞ!」
兵士さんが恐る恐ると言った感じで入ってくる。
仕事中にこんな風に襲っちゃってすみません!
「あはは…えっと、この町の住人だったら証明書を、もしなければ入場許可紙を発行しますから、お二人で合計500jのお金を頂きます」
兵士さんは慣れているのか、笑って流して話を進める。うーん、この人は大物になるで。
ていうか、入るのにお金がかかるのか!そんなの持ってないよな?どうしよう。
「マスター、ここは私が」
「あ!もしかしてお金を持って」
「音もなく殺せば問題ありません」
「問題ありまくりだけどッッ!?」
ひぃっと声をあげる兵士さん。俺もびっくりしてジャンヌを腕を掴む。
え、こんなヴァイオレンスな方だった!?さっきから俺の中のジャンヌのイメージ変わりまくりだけど!?
「ピロン!」
心の中で突っ込んでいると、ポケットのスマホが鳴っている。
取り出してみると、メールが来たようだった。宛名は…ゴッドちゃん。
『ハロー!裕太くん!異世界の初戦闘はどうだったかな!?そういえば君の初ガチャで誰を出そうかなって思ってたら君が持ってたジャンヌちゃんが行きたいって強く主張してきたからエクスカリバーを出したよ!もし他の子が良かったんだったらごめんねっ!あ、あとお金はゲームのホーム画面に【
……なげえよ!!
あとジャンヌで良かったよ。ありがとうゴッドちゃん。愛しのってのはちょっと意味わからないけど。
どうやらこの世界のお金には困ることは無いみたいだ。ゲームじゃ確か数百万j持ってたはずだから。
「すいません、すぐお金出しますね」
「あ、はい」
「マスター、ここは私が」
「殺すのはダメだって言ってるでしょ。血の気が多すぎだよジャンヌ」
「はい、申し訳ありません」
だからそのショボーンってやるのやめなさい。こっちが悪く思えてくるから…
と、思いながら俺は【j排出】というボタンを見つけて押す。とりあえずは1万5千jほど出しておくか。
金額を決めて排出をタップするとズボンの右側に重みを感じる。いつの間にかあった麻袋にコインが何個か入っていた。
白色と黄色と青色と薄い赤色のコインだ。
それぞれ10、100、1000、10000、となっている。適当に分けてくれたみたいだ。便利だね。
ちなみに今回は1万5千ジェニーだったからないが、この上に更に濃い赤色と虹色のコインがある。これらは10万と100万。宝石の色で分けてるようだ。
「じゃあこれで、お願いします」
「はい、有難うございます」
黄色のコインを5つ渡す。
「では、これから作りますのであなたの名前と、そこのお連れのかたの名前も…」
「俺は綾小路 裕太。こっちはジャンヌ」
「はい。えっと…あやのこう…じ?」
「あー…ユウタでお願いします」
「はい、すいません」
たぶん、この世界ではジャンヌのようにカタカナ表示の名前が多くて、綾小路なんて名前は聞いたことないんだろう。こっちの世界じゃユウタで通そう。
兵士さんは頭を下げるとどこからか、取り出した紙に字を書いていく。多分、俺とジャンヌの名前だろう。
「すみません、私の分まで」
「ん?ああ、気にするな。俺もジャンヌがいなければ町まで来れなかったかもしれないからな」
兵士さんが字を書いているのを見ていると横からジャンヌが申し訳なさそうに謝ってくる。
そんなこと気にしなくてもいいのに。俺だってゲームの中なら甲斐性はあるつもりだぞ!……リアルはないけどね、ははは……はぁ
「はい、出来上がりました。首にかけるとかはしなくていいんで、常に持っててください。無くした場合は再発行としてもう一度料金を払ってもらうことになります。無くさなければいつでも入ったり出たり出来ますので、無くさないよう気を付けてください」
「ありがとう」
「はい!」
やけに人当たりの良い兵士さんだったなー。
そんなことを思いながら町へと入っていく。中には露店を開いていたり、木製の店が建ち並んでいたりと、人々の往来も多い。
「さて、まずは宿屋でも探すかな」
「はい」
今回の10連ガチャでは『
と、そんな時、少し遠くから突然怒号が聞こえてきた。
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