剣と虫と刀と魔法

 25、26、27……試合が始まってからもうすぐ30秒が経過しようとしていた。両者開始地点から1歩も動かず、互いに1本の武器を握りしめて対峙していた。


 アタエの発動。

 A-33-I『シフトカリバー』

 持ち主の体重と重さを入れ替える事が出来る剣を召喚する。


 シャルルの発動。

 A-18-I『斬波刀』

 衝撃波を飛ばす事の出来る刀を召喚する。


 剣対刀。奇しくもA-I系で似た能力を持った2人だったが違いもある。


 シャルルの発動。

 H-35-F『マジックスペル』

 呪文を唱えてMPを溜める。MPを100消費して生物を死亡させる言葉を喋る。


 シャルルの周囲には青くて半透明の輪がゆっくりと回転している。アタエの位置からでは聞き取れなかったが、ぶつぶつと何かの呪文を唱えていた。それによって、輪っかは徐々にその太さを増し、この能力独自の概念である「MP」が溜まっていっている。溜めれば溜める程有利になる為、呪文を唱えるのを妨害するのが普通の反応だった。


 しかし一方、アタエの片手には1つの「繭」が乗っていた。


 アタエの発動。

 C-34-G『デザインセクト』

 様々な特殊能力を持った昆虫の蛹を召喚する。


 付与した特殊能力によって、羽化までの時間が変わる為、どのタイミングで繭が昆虫に変態するかはシャルルからは分からない。いずれにしても強力な能力である為、本来ならば羽化する前に潰した方が良い能力ではある。


 つまり、シャルルにとってこの30秒は『マジックスペル』の「MP」を溜める為の時間であり、アタエにとっては『デザインセクト』の羽化を待つ為の時間だった。互いに武器を持ちつつ1歩も動かなかったのは、両者が時間経過を必要とする能力だった為だ。


 試合開始から30秒がちょうど経ち、試合は展開する。アタエの『デザインセクト』が羽化する時間がやってきたのだ。


 繭から姿を変えた昆虫には、「羽」と「甲殻」の2つの特徴が備わっていた。厄介な「毒」は無い。それを確認したシャルルが一気に走り出す。対するアタエは『シフトカリバー』の剣先を床に置き、両手で持ちながらスイッチを押す。


 『シフトカリバー』の能力によって、重さが入れ替わる。『シフトカリバー』が重量40kgになり、アタエ本体が重さ100gになる、はずだった。


 アタエの発動。

 H-33-S『キュー』

 発動者が受けた影響を保留し、次に影響を受けた際に再現する。


 スイッチを押してもアタエの体重に変化はない。何故なら、その効果は『キュー』によって保留されている。この時点での重量は、『シフトカリバー』40kg。アタエ40kg。


 相手には予想を上回る企みを持っている、それに気づいたシャルルは、更に加速して追い詰める。


 シャルルの発動。

 C-35-M『マジックムーブ』

 ポーズを取る事でMPを溜める。MPを消費して高速で移動する。


 『斬波刀』を刺す態勢で構えてからの急加速。その高速突きは何者にも回避不能……のはずだった。しかしシャルルの殺意の篭った鋭い切っ先は、アタエに当たらずに空を突いた。避けた。どちらに? 前後左右に目を凝らすが、アタエが逃げた方向は空中だった。


 命中する直前、アタエは自らの舌を噛んでわざとダメージを受け、『キュー』によって影響を押し出した。これによって、『シフトカリバー』が40kg。アタエ本体が100gとなる。更にその状態で再度『シフトカリバー』のスイッチを押すとどうなるか。『シフトカリバー』100g、アタエ本体の体重への影響も再度保留され、100g。この体重操作により、羽を持つ巨大な昆虫の甲殻を掴むことによって、空を自由に飛べるという訳だ。


 シャルルがアタエを見上げる。純粋な飛行能力である『空中浮遊』とは違って、時間制限も無ければ速度も圧倒的に速い。『キュー』+『シフトカリバー』+『デザインセクト』の3能力コンボ。


 だが、まだシャルルの勝ち目が消えた訳ではない。一撃でも当てればアタエの重さは40kgに戻り、昆虫に掴まって飛ぶなんて芸当は出来なくなる。だが、闇雲に『斬波刀』を振って衝撃波を放った所で当てる事は難しい。相手から攻めさせなければ。


 シャルルは再度呪文を唱え始める。メンターから教わり、本人も内心ではちょっと気に入っている呪文を。


「体は砂漠で出来ている

 血潮は流砂で心は砂鉄

 幾度の試合を越え不敗

 唯一度の敗走もなく

 唯一度の勝利もなし

 担い手はここに独り

 ビュートの丘で砂を灼く

 ならば我らの能力に意味は不要ず……」


 そうしている間にも、アタエの高速斬撃は続く。シャルルが反撃を狙っているのは分かっているので、撹乱するように空中を動く。速いとはいえ、体重が乗っていない為、一撃で相手を倒すようような攻撃は繰り出せないが、着実にダメージを与えていく。

「……この体は

 きっと

 無窮の硝子で出来ていた」


 傷だらけになりながら、シャルルが呪文を唱え終える。

 そして死の言葉が口から放たれる。『マジックスペル』はMPを溜めるだけの能力ではない。その先には、相手を強制的に殺すというゴールが待っている。


 その言葉を聞いた瞬間、アタエの体重が40kgに戻った。『マジックスペル』による言葉もまた、『キュー』は保留したのだ。そしてアタエはそれももちろん計算していた。昆虫から手を離し、戻った体重で『シフトカリバー』をシャルルに思い切り叩きつける。


 あと一撃。あとたった一撃を喰らわす事が出来れば、『キュー』で保留された死亡するという効果が現れてアタエを倒す事が出来る。

 だがそれをするにはシャルルは傷を負いすぎていた。


 決着。

 アタエの勝利。


 参加メンター

 鷹宮 昴様 次元結晶+1(所持数:3)

 坤 艮様 次元結晶+2(所持数:5)



 感想

 新能力オンパレードの試合です。1つ1つ丁寧に解説しているとテンポが悪くなりそうだったので、多少端折りました。これどういう意味だ、と気になった方は能力解説の方でも質問受け付けてますのでよろしくお願いします。

 何と言ってもアタエの作戦が上手かったですね。なるほどこう使うかって感じで、良く出来ていたので勝たない訳にはいきませんでした。シャルル側もメンターさんは趣味に走った、と仰ってたんですが、機動系と武器は単純に強いですし、どうにもならなくなってもスペルの方でワンチャンあるのは良い構成だと思いますね。

 ご参加ありがとうございました。またよろしくお願いします。


 明日の20時にクエスト:08公開予定です。

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