第17話 ダンジョンエディット

バラバラになったミスリルドールを全部集めて売ったら、けっこう儲かった。モンスターを氷漬けにして隠しておいたのは前のダンジョンマスターの仕業だとしか考えられない。ダンジョンが使えなくなった後も残る罠を残すとは、そうとう執念深かったようだ。

この先も大変そうだ。


ダンジョン管理端末の隠し部屋は、使わなかったスケルトンを動員して見つけた。

今度は罠を警戒していたので、先に解除することができた。無事に僕らの支配領域に変更し、各階をいじることにする。

管理端末を使えば、支配領域全体を見渡して整備することができる。魔力の回復を待ちながら、ゆっくり考えよう。

ミスリルドールを売った代金があれば、ちょっとした整備なら余裕でできる。模様替えまではするつもりはないし、これから先のダンジョン攻略のためにも残しておきたい。

どこまで手をいれようか考えるのもまた楽しい。


侵入者がいる階層はいじるのに制限がかかるらしいので、五階以上は後回し。

それ以下はボーンイーターをばらまいてあるので、その生態に合うようにダンジョン改装するのもいいかもしれない。


生物が住むには何よりもまず水が必要だ。今まではスケルトンばかりのため必要なかったが、今後は生物が増えていくだろうから、ちゃんとした水源を用意したい。

そう思ったけれど、何もないところに水源を作るとなると値段がバカ高かった。仕方がないので、こんな場所でも生える苔をまばらに貼り付けていく。

空気中にある水分を吸収してため込む性質があるようで、ネズミ程度の大きさなら、十分に水分補給をしてくれるだろう。


六階から苔を貼り付けていって十階に到達したら、水場の値段がものすごく安くなっていることに気がついた。

なんでか調べたら、どうやら十階のすぐ外に大量の水があるらしい。なのでそこに一番近い場所に、大きめの水場を作る。そこから少しずつ他の場所に流していけば、十階はだいぶ水分の多い場所になるだろう。


水の問題が解決したので、十階をボーンイーターの繁殖場にすべく整備していく。

ボーンイーターはネズミであり、しかも【悪食】【多産】の特性を持っている。食べられるものがあれば、すぐにでも増えてくれるだろう。


『でしたら、こちらはどうデショうか。ひと欠片でも見かけたら、辺り一帯を焼却するしかないと恐れられている最悪の肉塊、その名も【ワーストブロブ】。繁殖力旺盛、瘴気生産者、突然変異多発などなど、凶悪な特性持ちでありながらお値段お手頃。沼の国を滅ぼした実績を持つ、私イチ押しのモンスターデス』


「却下」


『なんでデスー!?』


そんな凶悪なモンスターをこんな浅い階層で増殖させてたまるか。悪くすれば、ダンジョンから出てこの国を滅ぼしてしまうかもしれないじゃないか。

魔力を回収するには、侵入者が常にいる状態がいちばん良いんだ。


『ならどうするつもりデス?ボーンイーターすぐに増えますノデ、スケルトンを喚び出すとしてもかなりのお値段になってしまいマスよ』


「そうだね。うーんと、このあたりのモンスターはどうだろうか」


『【フェールウィード】デスか。特性は【繁殖力旺盛】のみの、戦闘力皆無の雑草モンスター。ネズミのエサにするなら悪くはないのデスが、問題がひとつありマス』


「それは何?」


『明かりです。今の非常灯程度の明るさでは、フェールウィード本来の繁殖力を発揮できまセン。ダンジョンを本格起動させて、明るくする必要がありマス。デスがそうすると、ダンジョンの基本消費魔力が増えることになりマス。これから先、継続して侵入者がいるかは分かりマセン。なのでもうしばらくは今の状態を維持することをオススメします』


たしかにそれも一理ある。このままだとボーンイーターは遠からず死んでしまうだろうが、安いモンスターなので懐は痛くない。

モンスターがいないと王子様の部隊がすぐにここまで来てしまうだろうが、ネズミ程度ならいなくても大きな違いはないだろう。


『なのでネズミのエサにもなるワーストブロブの出番デス』


「却下」


『とてもいい解決案なのになんでデスー!?』


「そんなのがいたら、全部を焼き払えるだけの火力を持った強いヤツが来るからに決まってるだろ。今の僕らに、そんなのに対抗できるモンスターを召喚する余裕はないぞ」


『ぐぬぬ』


反対意見はないようだ。


「ピセルってわりと脳筋思考だよね。強いので全部なぎ倒せばよかろうなのだー、って思ってるでしょ」


『センパイは失礼デスね。この思考法はお姉様から受け継がれてきた伝統的なものデスよ』


「天使全体が脳筋だったのか」


そんなことを聞いてしまっては、他の天使達のダンジョン運営が心配になってくる。いくら効率の良いダンジョンを選んでいたとしても、そのうちに行き詰まるんじゃないだろうか。


『ナルホド。他の姉妹のダンジョンがうまく行ってないのは、私たちの思考法に問題があったからなのデスね』


「やっぱり行き詰まってたんだね」


大きな力で立ち向かうのは、局地戦闘では正しいかもしれない。でも長期的なダンジョン運営には向いていない方法だ。


ピセルがハトそのものの顔で虚空を見ている。とても気まずい。


「この話、やめよっか」


本題に戻って、ダンジョンを見直すことにする。


「ダンジョンを本格起動させると、どうなるんだっけ」


『まずダンジョンの基本消費魔力が上がります。理由は照明と空調デス。明るくなると生物系のモンスターの活動が活発になりマス。また、ダンジョンが深くなると、新鮮な空気を奥まで届ける必要が出てきマス。いずれ必要になるでしょうが、もう少し先延ばしにしてもよいと思いマス』


ピセルがそこまで言うなら、もうちょっと待ってみようか。

王子達がいつまでダンジョンにいるか分からないし、先に進むためにも魔力は必要だ。


『あっ』


「えっ」


ピセルが急に声を出した。


「なにかあった?もしかしてボーンイーターが王子達に見つかった?」


前は少人数の斥候部隊だったからなんとかなったけど、本隊とぶつかってはひとたまりもないだろう。

どうせネズミと切り捨ててもいいんだろうけど、できれば生き残ってほしい。


そうか、やっぱり僕はボーンイーターにも無駄死にしてほしくないんだな。ならやっぱり、ダンジョンを本格起動させるべきだろう。


『センパイ、ダンジョンの本格起動に関して、もうひとつ問題が見つかりました』


「えっ、マジで?」


『ハイ。すぐではないのデスが、先の地下五十階以降に毒ガスが溜まっています。本格起動させると、空調の循環機能によってここまで毒ガスが上がって来マス。どうしマショウ』

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