西暦2015年 10月 7日



 「現代日本」に転生し、この世界の暦で言うところのおよそ2週間が過ぎた。


 転生魔法を使った時の副作用で、魔法の魔の字も知らなかった小娘だった時の姿になってしまったが、これはこれでこの世界によく馴染んでいるらしく、不幸中の幸いと言えるだろう。


 「現代日本」という世界は、我がもともと暮らしていた世界に比べてずいぶんと技術や産業か発達している。この世界には魔法はないが、どうも「電気」というエネルギーがその代替を果たしているようだ。そして、電気のエネルギーで形成したネットワークによって仮想空間を生み出し、情報の授受を実現している。精霊のような霊的存在がいないこの世界では仮想世界を作ることで物理的な距離に阻まれることのないコミュニケーションを実現しているというのだ。


 だが、電気エネルギーを使った技術以上に興味をそそられたのは、この世界の人々の空想力の豊かさである。


 この世界にやってくる以前、我は勇者について一つ納得がいかないことがあった。異世界転生の事例は少ないと定義されているにも関わらず、どうして奴が冷静に状況に適応し、まるで与えられたシナリオに沿うかのごとく我のもとにやってきたのか、それが分からなかったのだ。


 だが、こうして奴の故郷を訪れてみて合点がいった。


 どの書店を見てみても、必ずある一角には「異世界転生」という文字が入ったタイトルの小説が溢れているのである。


 おそらく我が世界にやってきた勇者も、現代日本に溢れた異世界転生を題材にした物語を読み漁ることにより、転生者が異世界で何をすべきかはすでに知識として得ていたのであろう。


 そう……奴はチートスキルを持っているどころではなく、攻略本を持った状態で転生してきたと言っても過言ではない。


 だがこの事実は我にとっても光明だ。


 復讐するにはまず敵を知ること……奴の境遇に近い異世界転生の物語を研究することこそ、奴の弱点を探るもっとも近道となるのではないか。


 そんな我の仮説を後押しするかのごとく、朗報が舞い込んできた。


 どうやらこの異世界転生小説の温床でもあるWeb小説サイトが、今日からまた一つ新しく世に出るというのだ。


 我は決めた。


 このカクヨムというサイトに溢れるであろう異世界転生小説を読み漁り、勇者の弱点を特定してみせる、と。


 サイトの正式オープンはまだしばらく先……それまでに少しでも「現代日本」の生活に慣れることにしよう。ああ、勇者のような「ハーレムスキル」が我にあれば、さほど苦労はしなさそうなのだが……。


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