第23話

あおいが生徒会長と組むということがわかってから間もおかずすぐに三回戦は始まった。


「さてええええええええええ。今回はペアの力を合わせた早押しクイズだぞおおおおおおおお」


初夏の日差しが強いグラウンドで俺たちは静かに話を聞いている。

騒いでるのはギャラリーだけだ。


「今回のクイズは簡単。ペアの片方がランニングマシンで走り一定の距離を走ったら回答権が与えられるぞおおおおおおおお」


またしても体力を使うクイズだ。


「参加者には一分与えられるぞおおおおおおおお。そのなかでどちらが走ってどちらが回答するか決めてもらうううううううううう」


周囲の参加者は一斉に相談しだす。

もちろん俺もあおいのことで動揺していたが志保と真面目に話す。


「体力面で考えたら俺が走った方が有利だよな」

「それだったら回答は私がするわ」


言葉少なに志保はそう答えた。


今はあおいのことは話さず目の前のことだけを考えよう。


志保も俺を動揺させないためかいつものようには暴力は振るわずただこつんと俺の胸に拳を当てる。


「バカ渚は走ることだけ考えて私を信じなさい」

「……任せてくれ」


そして十組がすべて決めたのを確認してから司会者が説明を始める。


「今回男女差を意識して女子は男子の七割走ればオッケーというルールだああああ。三問先取で勝ち抜け。上位二名だけが生き残れるデスマッチだあああああああ」


それならば生徒会長とあおいはどちらを選ぶだろう。


彼らの方を見ると生徒会長が走るらしい。


でも回答するあおいはどうするんだ。

あいつの知識は狭く深くだぞ。


そんなことを考えていると試合の鐘がなる。


「アーユーレディ? よーいスタートだああああああああああ」


英語と日本語が混じった合図で俺たちは走り出す。


「問題。八世紀から九世紀にかけて西ヨーロッパを支配し初代神聖ローマ帝国の……」

「ピンポンッ」


まだ出題の途中だぞ。誰が早押しボタンを押したのか。

男の低い声が淀みのない口調で答える。

「フランツ二世」

俺は走りながらなのでまったくわからなかったがギャラリーがざわつく。

回答が早い以外になにかおかしなことがあったのだろうか。


そして俺はなぜ彼らが騒いでいたのか理解する。


「おっと生徒会の沢村会長が走った後に回答したぞおおおおおおおおお。果たして正解でしょうかあああああああああああ」


そんなめちゃくちゃなことがあってたまるか。


生徒会長が走って回答までするなんておかしいだろう。


「ぴんぽーん」


しかも正解するだと。やっていることがおかしすぎだ。


だが会長は息も乱さずにフッと涼しげに笑う。


「文武両道とはこの僕のこと。誰が両方やってはいけないって言った?」

「さすがこの学校の生徒会長。さすがミスターパーフェクトおおおおおおお。さすがビッグマウスうううううううう」


司会の言葉にギャラリーもヒートアップする。


「うおおおおお。やっちまえええええええ生徒会長ううううううううう」

「そうだそうだ。いちゃつく男女カップルに正義の鉄槌をおおおおおお」

「かわいいロリが悔しさで泣き崩れる瞬間を見せてくれえええええええ」


半分以上私怨や自分の欲望をいっているだけだが。


「天はこの生徒会長沢村栄治の上に人を作らず、僕の下に山ほど人を作ったってことだっ」


「言ってること滅茶苦茶じゃねえか」

俺が不平を言っているのはまったく相手にされない。


「はっ。悔しければその凡才さを恨むがいいさ」


再び前髪をかきあげて上目使いでウインクする。

なんともナルシストな男だ。


「ちなみに今回の問題は初代神聖ローマ皇帝はカール大帝。最後の神聖ローマ皇帝は誰かという質問でした」


設営に疲れはてた副会長がヨロヨロとマイクに近づき解説をいれてくれる。


「では次の問題。後悔先に立たずを英語にした諺は……」

「It is no use crying over split milk」


またしても途中で早押しボタンが押され回答が終わる。

しかも発音が微妙にいいのがムカつくな。


「はっ。頭脳明晰、語学堪能な僕に嫉妬をしても無駄だよ愚民の諸君」


嫉妬なんかしてねーよと思いながらも参加者たちの焦りを近くに感じる。

というか会長が生徒たちを愚民とか言っていいのか。


対するあおいはのんびりと構えてただ突っ立っているだけにも見える。

どうしてあおいは俺たちと対立する方向を選んだのか。


それこそ後悔先に立たずということか。


「渚、焦りは禁物よ。いつも通り落ち着いてやりなさい」

「……わかってるよ」


志保がなだめようとしてくれるのがわかったが俺は焦りを隠せない。


「解説を入れるとこれは覆水盆に返らずの英語で言うと何かという問題です。こぼれたミルクを嘆いても仕方がないという意味ですね」


副会長は弱々しい声で説明してくれる。


「あと一問で沢村・柊チームが勝ち抜けできるぞおおおおおお。さて他の選手たちはそれを防ぐことができるかあああああ」


司会者が煽ること煽ること。

そして俺は必死に走る。まずは回答権を志保に渡さないと勝つも何もない。


「問題。白河法皇が嘆いたものの三つのうち鴨川の水と山法師がありますが残りの一つは……」


「賽の目」


当然のごとく生徒会長が回答する。しかしこいつ走りながらやってるのにどうして汗一つかいていないんだ。


「さてええええええええええ。これで勝ち残れるかあああああああああ。それとも他の参加者が二人を止めることができるかあああああああああ」


司会者の言葉にギャラリーが騒ぎだす。


「おっとこれで生徒会長の勝利となれば部費の倍額の話はどうなる?」

「予算があると聞いてそれにかけて俺たちは送り出したのにいいいいいいい」


一応反対勢力もとい予算倍増に惹かれた連中もいるということだ。


だが天は無慈悲にも彼らの願いを届けることはなかった。


「ぴんぽーん」


くそ。これで決勝に残るためにはあと一枠をもぎ取ることが条件となった。

待ってろよあおい。


俺は心のなかでそう呟く。


「さあクイズはまだ続きますがここで勝者からの一言おおおおおおおおおお」


「僕が勝ったら蕪木志保、君は生徒会の一員になってもら……」

「へへえ一番乗りだあ。周りのみんな勝っちゃってごめんねえ」


かっこよく決めポーズをとる生徒会長からマイクを奪いあおいがマイペースにも参加者の逆鱗に触れる発言をする。


「……あおいのやつ」

「今は冷静になりなさい。私が三回以内に全問正解して見せるから」


志保は俺の肩をつかみ耳元でそうささやく。


俺も焦っている場合じゃないな。

まずは志保を信じて走ろう。


「さてえええええええええ。一組が勝ち抜いて読めない展開となってきたぞおおおおおお。残るは一枠。誰が勝利をもぎ取るかあああああああああ」


司会者の発言で周囲の参加者も奮起する。


強力そうなライバルは前回一位で勝ち抜いてきたマッチョたちと頭脳ではひけをとらない伊藤桜と咲のペアだ。


今回は俺の体力と志保の集中力にかかっている。

俺は全力で走ることに専念するだけだ。


「ええさきほどの解説を入れると鴨川の水は洪水、山法師とは比叡山延暦寺の僧兵、賽の目はギャンブルのサイコロのことです」


副会長の解説もだんだん声が小さくなっている。

彼も生徒会長が勝利することは望んでいないだろう。


残る一枠を賭けて次の戦いが始まるのであった。










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