第14話

 志保が宣言した通り彼女と咲、伊藤桜をつれて俺たち四人で生徒会室に向かった。


 といってもすぐ隣の部屋なんだけどな。


 コンコンとノックすると返事が聞こえる。


「はーいどうぞ」


 少しくたびれた表情の副会長が出てくれた。


「これはこれは遠路はるばるご苦労さんです」

「副会長こそいつもお疲れさま」


 みんなを支える生徒会。そのイメージに違わない優しそうな青年だった。

 彼ならこの学校を任せることはできる。そう思った。


 それなのに今は生徒会長が牛耳っているとは。

 世の中わからないものだ。


「生徒会長のわがままはいつものことですから」


 これで文句のひとつも言わないのだから彼はなかなか立派だ。

 だが表情には確実に疲れの色が見えている。


「それで今日はクイズ大会の参加の申込用紙の提出を」


「はいはいありがとうございます。これが参加票です。大事になくさずに持っていてください」


 申し込み用紙と引き換えに参加票が手渡される。


「しかし会長の気まぐれには困らされたものね。急にクイズ大会をやりだすなんて考えもしなかったわ」


「とほほ。僕たちしがない中間管理職には耳がいたいです」


 副会長ははあとため息をつく。


「なんでも対戦だからって会長は仕事をほっぽりだして一人籠ってしまって。残りは全部僕に丸投げです」


 だからか彼は実年齢よりくたびれて見えた。

 外見は悪くないのだがよれたシャツに縁の厚い眼鏡がそれをすべて台無しにしている。


「蕪木さんがほしいとかなんとか。僕にはいまいちピンと来ないんですが」

「あれは会長の戯れ事だから気にしなくていいわ」


 志保までため息をつく。同じ生徒会長に振り回される経験があるもの同士感じるものがあるのだろう。


「まあ本人が楽しそうなんで僕たちはやるしかないんですけどね」


 どこかダークな空気を漂わせて彼はそうぼやく。

 憎まれっ子世に憚るとはいったものだ。


「はひぃ。先輩方もなにかとご苦労がおありで」

「咲も心配になってきたよ」


 参加者に心配される主催というのもどうなんだろう。


「まあやるからには責任をもってやらせていただきますよ」


 俺の視線に気がついたのか副会長は安心させるようにハキハキと話す。


「今回はクイズ大会ですけど毎年生徒会は独自のイベントを開かないといけない決まりがあるんです」


 それに生徒会長の思惑が絡みクイズ大会となったようだ。


「クイズ大会なら準備はそこまで大変じゃないし生徒たちも喜ぶしで一石二鳥ですよ」


 どこまでが本当かはわからないが彼らも実力者だ。イベントの運営にはなれているようだ。


「とほほ。心配してくれるのはありがたいですけど皆さんも徒然部崩壊、なんてことにならないように気を付けて」


「副会長もありがとな」


 彼の言葉に不穏なものを感じたが今は気にしている余裕はない。

 俺たちの徒然部が崩壊。そんなことが起きるはずはないのだから。


「じゃあ俺たちはここで失礼します」


 そうして俺たちは生徒会室を出ていった。


 ***


 今度は資料集めに図書館に向かう。


 俺と志保、咲と伊藤桜の二手に別れて参考になりそうな書籍を集める。


「しかしクイズ大会かあ。準備ってなにすればいいんだろう」

「そんなんじゃ先が思いやられるわね」


 相変わらず志保は辛辣だ。


「まあ理系と文系どっちも完璧なお前には愚問だったか」


 俺が呟くと彼女はさっさとほしい書籍を借りていく。


「天文学に物理学、それに文学まで範囲結構広いな」

「これくらいできないと本番で勝てないわよ」


 ふふんと得意気に胸を張る志保だった。


「あとは……歴史の本がほしいわね」


 あちこち見回すと目的の本は少々高いところにあった。


 志保は身長が百六十センチくらいなので微妙に手が届かない。


「ん……届かないわね……」

「ほらよ」


 分厚い歴史の本を手にとり渡す。

 丁度彼女の頭上に向けてやると。


「渚の癖に生意気……」


 俺が軽々ととったのが悔しいのか彼女は顔を赤くしていた。


「生意気って……。困っている人を助けるのは普通の事だろ」

「おせっかい」


 頬を膨らませて俺をにらむ姿はどこか可憐で。

 彼女も一人の女の子だということを実感した。


「と、とにかく余計なお世話なのよっ」

「お前その性格苦労するぞ」


 現に今、現在進行形で苦労しているんだが彼女はそれを認めない。

 プライドの問題があるんだろう。


 そしてごまかすように近くにある本を片っ端からとっていく。


 かわいいなあ。なんて思っていたところだったが。

 運の悪いことに目撃者がいた。


「はひぃ。少女マンガにあるある図書館で届かない小説をとってもらう。見覚えのある展開ですぅ」

「二人ってやっぱり付き合ってるのかな?」


 タイミング悪く伊藤桜と咲が見てしまったようだ。


「ふひひ先輩方私たちが見ていない隙にいちゃつくなんて隅におけませんねえ」

「渚と先輩やっぱり付き合ってたんだ……」


 なんで二人は誤解しているのだろう。


「本来なら応援すべきでしょうが。だがしかあああしここは神聖は図書館。異性間不純交遊は認められませんっ」

「ちょっと声が大きいよ桜ちゃん」


 なぜか調子に乗る伊藤桜に慌てて注意する咲だった。

 そしてそれにビビって俺たちも自然と声が小さくなる。


「俺はただ志保がとれないからだな。代わりにとっただけだ」

「そうよ。勘違いは不要よ」


「はいはいいいわけは結構ですっ。いちゃつきたいのを免罪符に言い訳までするなんて……リア充爆発しr」


 それ以上騒がれると困るので俺は慌てて伊藤桜の口を塞ぐ。

「むごっ。ふごふごごっ。ふごっふごごごふ」


 訳:何でですか先輩っ。このスケコマシ。


 どうして俺だけが悪者なのか。

 あとでセクハラで訴えられそうな気もしたが俺たちの関係をごまかすためにも仕方がない。


「桜ちゃん言いたいことが全然わからないよ?」


「むぐっ。ふごごふごっ。むぐふごごっ」

 訳:この変態っ。助けてええ。


 伊藤桜は必死に助けを呼ぶがいまいち聞こえない。


「渚、桜ちゃんがかわいそうだから離して」

「ええでもまた騒がれたら大変だし」


 さらっというと伊藤桜が再び暴れだす。


「ふごっ。むごごっごっ」

 訳:このっ。横暴ですぅ。


「仕方がないわね。私がやるわ」


 志保はやれやれとため息をつく。というか勘違いは伊藤桜のせいだけどあきれられるほどの事か?


「伊藤さん、世の中には知らなくていいことがたくさんあるのよ?」


 彼女は鋭い視線を向け、暗い瞳で伊藤桜を見つめる。

 その暗さはまるですべての闇を飲み込んでしまいそうなほどだ。


「ふぎぃっ」


 それにすっかり竦み上がって伊藤桜はブルブルと震えている。


 普段怒りっぽい彼女がこれをやると効果覿面のようだった。

 確かに俺もちょっとびびった。


 伊藤桜もおとなしくなったことだし彼女を解放する。


「はあはあ。ごめんなさい。私が間違ってましたあああ」


 肩で息をしながら頭を下げる。


「お互い理解しあえたようでよかったわ」


 にっこり微笑む志保が恐ろしかった。


 一方のやられた伊藤桜は俺の方をじっとりとした視線でにらむ。


「ふひぃっ。この恨みは忘れませんからねっ」


 なぜだか俺の方が恨まれているし。


 って全然勉強できないまま図書館の閉館時間が迫っていた。

 これでクイズ大会本番は大丈夫なのだろうか。


 一抹の不安が残ったが気にしても仕方がない。

 まずは借りた書籍を一通り確認してからにしないとな。


 三人揃うと文殊の知恵というが四人揃ってもたいした成果は出ないまま時間は過ぎていくのだった。

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