第4話 


「そっかー。ナギちゃんは就活中かー」

「うん。見事に百連敗中……」

「でもナギちゃんは真面目だから、きっと大丈夫だよ」

「あー、ありがと……」


 何だか申し訳ない気持ち気持ちでそう言い、私はタッちゃんへと手を伸ばす。


「それに……優しいし」

「そ、そう?」


 うさぎ型りんごに爪楊枝を刺して、ルミカは語り出した。


「本当に優しいじゃん。小さいころは……私が忘れ物したり、勉強で分からない部分があったりしたら、絶対に助けてくれて。あと一番嬉しかったのはね、」


 そのとき、ルミカはりんごを一口かじった。それを飲み込んで口が空っぽになったところで、話を再開させる。


「中学校で、私の変なうわさが流れていても、いつも仲良くしてくれたこと。私の格好がド派手になっても、それまでと変わらず普通に接してくれたことかな!」


 ルミカは笑っている。でも何だろう。

 少し淋しそうなのは、気のせい?


「……私、中学校でハジけ過ぎちゃったせいで、だいぶ人が離れていっちゃってさ……」


 うん、知っている。

 でも私はそれを口に出さない。


「私……小学校のときみたいに普通にしていれば、何も変わらなければ、みんなとずっと仲良くできたのかな? 中学校のときにずっと私と、一緒にいた子たちもね……実は私のこと好きじゃなかったんだって。私が嫌われていたのは、高校に入ってすぐに知っちゃった。というか聞かされたの。笠ちゃんに。『あんたのことなんか、ウチらみんな嫌っているから、もう連絡してくんな』って」

「笠井そんなこと言ったの?!」


 思わず声を荒げてしまった。笠井とは、ルミカの中学時代の友人グループのリーダー的存在であった女子のこと。私や私の友人、そして男子の大半は「うっせーチビ」と陰で呼んでいた。ケバくて、友人以外にはキツく、そのうえ先生に注意されるとこれでもかぁっ! というくらい屁理屈を連発する、やかましい女だった。いつも自分と同レベルの下品な男子を連れ回していた奴は、ときに「大人のおもちゃ」を片手に、「シてぇーシてぇー」と大声で叫びながら廊下をズケズケと歩いていた。アホか。

 それにしても、あいつ……。


「何かね、私が笠ちゃんの元彼と偶然一緒に入っていた委員会の話をしていただけでね、私がその彼氏を寝取ったって、変な噂になっちゃったの。私と仲良かった子たちの間で。誤解を解いて仲直りをしたかったけど……」


 私は急いでハンカチをルミカに渡した。


「……みんな全然信じてくれなかったし、その後、連絡はメールも電話も全てスルーされるようになった」


 ルミカは涙を拭いた。


「……ひどい……」


 殴りたい。殴れるものなら殴りたい。笠井たちを。

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