カタンコペというゲーム

今川 巽

第1話 ゲーム開始

十代の子供がセックスをして、それもゴムなどつけず、避妊という知識も、ただ気持ちよくないからというだけのことで考えず、できたら堕胎すればいい、そこに胎児を殺すという罪悪感など感じない、そんな事が日常、平気で起こるようになると、どこかで誰かが考えるようになる、これでは駄目だと。

 だからといってどうするのかと言われたら、答えなどない。

 自分で責任をとれと言われても成人しない子供というのは無責任な生き物だ。

 だが、大人は違う、責任がある、理性がある、知恵がある、欲望をどうすればいいかと考えることができる。

 そして作られたのがネット社会のカタンコペというゲームサイト、例えるなら、そう、夜の繁華街のような場所だ。

 大人限定のサイトで、入会に当たっては規制があった、年齢制限、30歳以上、理性ある人、犯罪者、歴のある者は不可、もっと細かい部分もあるのだが、それは入会時、個別に知らされるらしい。

 サイトでは個人の情報は絶対に、漏洩したらかなりのペナルティがあるということだが、実際のところ、どのようなものなのかは知らされてはいない。

 

 彼女、桜川が、このサイトに入会下のは、どんな性癖を持っている者でも、ここなら安心してセックス、行為を楽しむ事ができるからという話を聞いたからだ。

 最初は仮想現実を主体としたゲームと思っていたのだ。

 ゲームの中で疑似セックスができるという話を聞いたとき、洋ゲーみたいなものだろうか、そんなことを思っていた。

 最近は日本のネットゲームも海外の影響を受けたせいなのか、パソコンの性能も関係しているのか、作成できるプレイヤーの容姿も変わってきた、以前はスタイル、容姿の完璧な妖精、神、悪魔、色々な種族が多かった。

 大体こういうゲームで遊ぶのは男性が多いのではないかと思っていたが、最近はボーイズラブ、同性愛、百合、ホモというのは特別視されることはない。

 現実世界でもだが、異性恋愛しかできないということ自体、境界線が緩くなっている。

 映画、漫画、創作物では当たり前のことがゲームの中では常識的になっているのだ。

 そしてカタンコペの中に出てくるキャラクターたちは、プレイヤーたちを傷つける事ができないようにプログラムされている。

 現実社会で疲れて、傷ついている人間が多いのだ、せめてゲーム野中ぐらいという配慮だろう。

 現実とゲームは違うといっても、そこに逃げ込み、病気、廃人に追い込まれて戻れなくなる人間もいる。

 その為、カタンコペではゲーム内の滞在、プレイ時間も制限されている、だが、これには個人差もある、事前に登録しておいたデータとプレイ時間をカタンコペというゲームが判断して場合によっては強制的にシャットダウンするのだ。

 

 事前に、こんなゲームだと分かればいいのだが、カタンコペは分からない事が多すぎた、普通なら攻略サイトなどあってもいいものだが、それはない。

 というのも、ゲームの中でのセックスは己の性癖を公開しているようなものだからだ、中には自分の痴態を公開して喜ぶ人間もいるが、その場合、カタンコペ関連のサイトということになっている。

 

 パソコンを新調しよう、ついでに、いや、どうせなら、あのゲームをやってみよう、というのをやってみよう、最初はそんな気持ちだった。

 

 ゲームに入る前にキャラクターを決めれば、すぐにログインして遊べる、簡単だと思っていたのに。

 嗜好、セックスの体位、今までの経験の数、性別の好みだけでなく、色々な、そんなところまでというアンケートをとるとは、うーむ、このゲームを作ったのはマニアだと思わずにはいられなかった。

 このゲームは海外の人間もプレイしている人がいると聞く、様々な国の言葉に対応しているらしい、初めてなのでどんな内容にすればいいのかわからない、プレイ時間も長くなくていいだろう。

 ヘッドホン付きのサングラスは軽いもので、それをつけてしばらくするとモニターの中の景色が変わった、家の中だが、日本ではないようだ、外国だろうか。

 そういえば自分はどんなキャラクターなのだろう、しばらくして足音と同時に女が姿を見せた。

 「はい、モニターの前にいる、あたし」

 自分に話しかけてくるのだ、その声はなんとなく、自分に似ていないこともない、ヘッドホン越しだからそう感じるのだろうか。

 ゲームのキャラクターなので、そこそこの美形なのかと思ったのだが、普通だった、いや洋ゲーに出てくる東洋、アジア系の人間のような顔立ち、スタイルで、あっけにとられた反面、なんとなく、ほっとした。

 

 簡単な説明の後、ここは仕事場、住み込みでハウスキーパーと助手をしているという。

 最初のうち、ぎごちなかった言葉がだんだんとスムーズになってくることに気づいた。

 「会話できなくなったら、メッセージを送るから、外付けの用意しておいて」

 五センチほどの小さなモニターはゲームソフトを購入したときについていたものだ、何故、必要なのかわからなかったが、それは。

 「名前だけど、それは今すぐでなくていいから」

 その後、ゲーム開始ですとまるで映画館の案内のようなナレーションが聞こえてきた。


 「ゲーム開始です、何かトラブル、キーボードのエンター、もしくはあなた自身のキャラクターに話しかけてください、では、カタンコペに」



 フィリップ・エルゲン教授、そう、彼は大学教授という職業だ、家には二匹の猿、二匹の猿と一緒に住んでいる、ペットではなく、協力者としてだ。

 大学で生物学を教えるだけではなく、それと平行して、ある研究をしていた。

 性機能の回復のための機械、簡単に説明するとバイブレーターの開発だ。

 二匹の猿は仲間内での優劣争いに負けて負傷し、雌たちからも相手にされない最下位の猿だった、争いに負けた結果、怪我をしたということもあるが、性行為ができない、人間でいうなら不能だ。

 施設で飼われていたので処分、運がよければペットという感じで売られるのだが、この二匹を使って実験をすることになった、不能でも性行為ができるという機械を作る為だ。

 この仕事を引き受けることによって仕事が増え、フィリップはハウスキーパーを雇うことにした、家事だけでなく、二匹の猿の世話もある、これは、一人暮らしの自分には荷が重いと感じたのは無理もない。

 募集して三日ほどしてだ、やってきたのはアメリカ人の女性だ。

 あまりにも大雑把すぎる性格、食事、たとえ、ゲームの中の世界といえど、見た目からして、どうだただ、ジャガイモをレンジで茹でてマヨネーズをかけただけのもの。

 いくらゲームでも、これはと思ってしまう、自分はプレイ時間も長い、確か、この場合は変更ができる筈だとフィリップは、ここ最近、考えていた。

 最初の自分のキャラクター設定がまずかったのか、あまり考えずに、そのままにしてしまったのだ、正直、今から変更するのも面倒だ、だが、せめて、ハウスキーパーだけで変更したい。

 これはカタンコペのゲームのキャラクターだろう、最初の頃より行動は変わってきたが、それでもだ、ところが。

 昨夜、真夜中のことだ、カタンコペからメールが来たのだ。

 ハウスキーパーにキャラクターが入りましたと。

 

 

 「パンケーキを作ってみました、その、アメリカ風の朝食だと、こんな感じでいいんでしょうか」

 テーブルの上には大きな皿が、だが、それだけではない。

 「サラダは温野菜にしてみましたけど、リンゴはコンポートにしたんですが、生がいいですか」

  テーブルの上に並んだ料理を見てフィリップは驚いた、そして感動した、ゲームの中だというのに。

 現実世界なら、どうだろう。 

 「アメリカ風の食事、か」

 自分が結婚したとき、メアリーが作ったのは、いや、買ってきたものはファーストフードのチキンとハンバーガーだったことを思い出した。

 それが三日続いたときは正直、辟易したものだ、しかも、夕食はピザだ。

 チーズとサラミが、これでもかというくらいの分厚さで、トッピングなどという量ではなかった、しかも健康にいい、ダイエットの為だとオリーブオイルをしたたるほどかけたのだ、彼女は。

 

 このゲームを始めて、自分のキャラクターを細かく決めたことをフィリップは後悔していた、ただの大学教授という設定なら、もっと簡単だったろう、性的嗜好を他人に理解してもらうというのは難しい。

 それを公にするのは恥ずかしいことだと自分は、いや、周りのゲームをしている人間も思っている、だから、友人知人同士でも、このゲームに関しては司祭を話したりはしない。

 詳しい思っていた、だが、ゲームなのだ、これは現実ではない。

 

 何だ、これは。

 その夜、モニターに出てきた小さなマークは初めて見るものだった。

 「音を立てずに、二回の部屋へ」


 あなたはそれを見る、知らないふりをして。


 外付けの小さなモニター指示は選択で進むようになっていた。

 子供の頃、ロールプレイング遊んだことを思い出したフィリップは見るという選択をした。


 いつもなら、簡単にマウス操作だが、慎重にと思いキーボードを使ったのは予感めいたものを感じたからだ。

 

 ドアに顔を押しつけると中の様子を見ることができた、ジョニとベドイック、二匹の猿の姿を見て、女の声を聞いてフィリップは目を大きく開けてモニターを見た。

 

 アニマルセラピー、獣姦願望、フェチズム、胸。

 次々と単語がキーボードの横の小さなモニターに映し出され、理解したフィリップは自分が興奮していることに気づいた。

 そのとき、画面が暗くなった。


 「なっ、どうした」

 まさかパソコンが壊れたのか、だが、そうではなかった、目の前のモニターに出てきたケッセージを見て、彼はどうすると思いながらも悩むことなく答えを出した、それも、すぐにだ。

 それは、彼女の痴態を見なかった、という選択だ。


 

 

 

 


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