第三章 トロン

9話 真実。そして Aパート

 ピンポーン。軽快な音が鳴った。

 和風の家に誰かがやってきたことを知らせる音。うなだれるジュンヤは、台所にいた。ビデオモニターが近くにあるのに、相手を確認しない。

「ジュンヤ! 寝てるの?」

 フワの声がした。涙をそででぬぐって、玄関を目指す。カギを開けた。

「遊びにいこっ」

「あー。オレさぁ。いま、ちょっと……」

 ふわふわの髪を揺らして微笑む少女に対し、少年は渋い顔。歯切れも悪い。

「出かけてから眠ればいいでしょ。早く、早く」

 フワに手を引かれるジュンヤ。強引に連れ出された。家のカギがかかる。

 柔らかそうな服の少女に手を引かれ、少年は歩いた。

 しばらくして着いた場所は、知らない建物。灰色の集合住宅のようで、遊ぶための何かがあるようには見えない。

 部屋に入ると、少女がドアを閉めた。そちらに気を取られた隙に、こげ茶色のロングコート姿の男性が迫っていた。少女よりは短い髪。少年がとっさに目を閉じる。だが、すぐに開けた。

 アキラがジュンヤに近づいた。身体からだに触れる。

盗聴器とうちょうきはない」

「ここがなぞ組織そしきのアジトか」

 ジュンヤが、ひらめいたことをそのまま口に出した。それにしては、特に怪しい物がない。

なぞ組織そしきだと教えられたみたいだけど、それは違う。エスツーは“試作ギア”を取り戻すための一時的なもの」

 まだ手をにぎったままのフワが言った。

「フワ? お前もか」

「事実を知られないまま、秘密裏ひみつりに取り戻そうとした。が、結果的には話した方がよかった」

 アキラの言葉で、ジュンヤは冷静になった。話を聞けるかもしれない。

「いつまで右手をつかんでるんだよ」

 慌てた様子のフワが手を引っ込めて、三人は部屋の奥へと歩いた。


「トウゴさんとハルカさんには、旅行に行ってもらった」

「突然すぎるだろ」

 天井からの照明が暖かい。薄い灰色の部屋で、立ち話がつづく。家具がほとんどない。机はあるものの、椅子がない。座布団ざぶとんもなかった。

「家族を利用することは、分かってたから。仕方ないよ」

「身の安全は確保できた。これで納得できたか?」

 フワとアキラが、ジュンヤの心配事を取りのぞいた。普通はできないことをさらりとやってのけたのは、千古せんこの財力があればこそ。

 でも、まだ知りたいことは山ほどある。目が語っていた。

「これ以上話すには、覚悟がいる」

「ある!」

 少年の目は、強い光を宿していた。

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