5話 強敵 Cパート

 ピンポーン。和風の家で、来客をつげる音が鳴った。

 玄関の横のスイッチを押すと、家の中にあるビデオモニターが作動。すぐに誰なのかを知ることができる。通話も可能。

 家のあるじであるトウゴは、息子に伝えるため部屋へ向かう。妻のハルカが玄関のカギを開けた。

「こんにちは」

 入ってきたのは、ジュンヤと同じクラスの少女。小学6年生。かわいらしい服の上で、ボブカットの髪がふわりと揺れる。

「お邪魔じゃまします」

 つづいて、男性がかるく頭を下げた。長めの、しかし、少女よりは短い髪がなびく。学生服のような、しっかりとした衣装に身を包んでいる。二人は兄妹。

 フワとアキラが、ジュンヤの家にやってきた。


「ちょうどよかった。宿題で分からないところがあってさ」

 居間にやってきた少年。難しい顔をしながら笑い、宿題を持って近づいていく。

「だと思った」

 木の床の上に立ったままのフワが、目を半開きにして息をはいた。

「アキラ。大丈夫か? どうしたんだよ」

 フワの兄も、立ったままでジュンヤを待っていた。そして、左手の甲に包帯ほうたいを巻いていた。

「ぶつけただけだ。ここまでする必要はない」

「いいでしょ。心配したって」

 なかよし兄妹で、うらやましい。でも、ちょっとやりすぎかもしれないな。普通に動かせるみたいだし。

 ジュンヤは、思いを口に出さなかった。

 木製の机を囲んで、座布団ざぶとんに三人が座る。宿題ではなく、雑談が始まった。

「運動は、得意じゃない」

「ドジなところがあるよね。おにいちゃんは」

 三人にお茶が渡された。微笑むハルカは、トウゴと共に台所へ。一緒に晩ご飯の下ごしらえを始めた。

 フワとアキラは、株式会社千古かぶしきがいしゃせんこの関係者である。

 千古せんこが建築系の会社だったのは、遠い昔の話。最近では色々なことをやっているらしい。ジュンヤは詳しく知らない。知らなくても、二人と話はできる。それでよかった。

「宿題を見てほしいんだけど」

 話を切り出した少年に、アキラは微笑みを返した。細いながらも引き締まった身体からだをしていることが、服の上からでも分かる。

「だーめっ」

 アキラが返事をする前に、フワが断った。

「なんだよ。いじわるかよ」

「おにいちゃんに聞いたら、すぐ答えちゃうでしょ。わたしが見てあげる」

 少年と少女が勉強する様子を、成人男性が見守っていた。

 しばらくして、フワが悩みだした。隣を向いて、甘えたような声を出す。

「これは、どう説明すればいいのかな」

かたは分かるか? まず――」

 わかりやすい解説に、少年が尊敬そんけいの眼差しを向ける。少女は、兄ではなく同級生を見つめていた。

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