２話 ベルトの所有者 Ａパート
『見つからないように、
格好いい声色が、情けない言葉を発した。勝利の
「さあ、行きましょう。正体を隠さないとね」
髪の長い女性のあとに、体格のよさを防具で強化した人物がつづく。落ち着いた赤色の防具以外は、ほぼ黒色。筋肉ダルマの成人男性に見える。しかし、不思議と威圧感はない。低姿勢で歩いていた。
川表の斜面を登りきった。立ち並ぶ
「どうしたの？ 早く、車に乗って」
川とは反対側の斜面を下った先で、スーツ姿の女性が手招きしている。言われるがまま、駐車場の黒い自動車に乗り込むヒーロー。後部座席に座った。窓も黒に近い色で、外からは中が見えない。
『このままだと、おねえさんに見られちゃうんだけど』
「そのベルトを作っている会社の人、って言えば分かってもらえる？ 私はツバキ」
ツバキと名乗った女性がエンジンをかけた。風の音とともに冷房が効き始める。運転席からの言葉を聞いて、大きな黄色い目が外の文字を見た。
おもちゃを作っている会社として、まだ
最近では様々な分野に進出していることを、少年は知るよしもない。
『オレは、ジュンヤ。それで、どうやったら元に戻れるのか――』
「スイッチを押して、
『
大きなシルエットが光に包まれた。
「戻った」
普段どおりの声がひびく。小さな手を見つめるジュンヤ。何かに気づいたような顔をして、堤防の上に視線をうつす。やはり、並んでいるはずの木が１本ない。
「木が、戻ってない」
悲しそうな少年を見て、ツバキも悲しそうな顔になった。無理矢理に笑顔を作る。
「念のため、移動するから。ちょっと付き合って」
きれいなおねえさんに薄化粧がほどこされていることを、ジュンヤは知らない。
「本物のベルト？」
袖の短いシャツとハーフパンツを身にまとう少年が、女性の言葉を復唱した。
カフェのようなおしゃれな机をはさんで、二人が椅子に座っている。やわらかな白を基調とした応接室。コップの水は空になっているものの、ギアロードのおかしには手が付けられていない。
「間違って本物のベルトが売られたらしくて。探して来いって言われたの。上に」
「上って？」
「会社には、たくさん人がいてね。私より偉い人なら、全部知っている、と思う」
「なるほどなあ」
ジュンヤは、ツバキの立場を理解した。おもちゃ屋の店員より若いのは、会社に入って間もないからに違いない。まだ20歳じゃないかも。アキラより年下かもしれない。
同じクラスのフワと、その兄であるアキラ。二人のことを考えることはできなかった。
「だから、返してくれるかな」
「え？」
ジュンヤの手が、銀色の装置を握りしめた。お腹につけられたままの
ベルトは小さな手でつかまれ、震えていた。
「持っていたら、さっきみたいに、
「……」
「ペジっていう
いちど視線を外したツバキが、ふたたびジュンヤを見つめた。
「でも、これ、オレが買ったし」
つぶやいた少年は、固く口を結んでいる。
「ちょっと待ってて。上司に連絡するの、忘れてた」
鞄からピンク色のスマートフォンが取り出され、通話が始まる。ジュンヤは、それを遠い世界の出来事のように見つめていた。スーツに包まれた相手のスタイルにも興味がない。
「
相手の声は小さくてよく聞こえない。
「本当ですか？ いえ。
通話が終わって、沈黙が訪れた。複雑な表情のツバキをみかねて、ジュンヤが口を開く。
「なんだって？」
「よくやった、って」
「ん？」
「コロンっていう簡易機関を作って、ジュンヤくんをサポートすることになったみたい」
言葉の意味が分からない少年に、理解できたことがある。
「ソーグのベルト、持っててもいいんだ！」
少年の満面の笑みを見て、女性も笑顔を返す。そして、一瞬だけ、どこか寂しそうな表情になった。
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