1話 変身 Cパート

 ギアロード・ソーグの設定では、粒子りゅうしを集めて身にまとう。

 粒子とは、あらゆる物を支える材料。一番小さな種類は素粒子そりゅうしと呼ばれる。

 そんな小さなものを、思いどおりに動かす技術はない。変身へんしんヒーローにかぎらず、空想科学は色々な作品に登場する。大抵の大人は、それをサイエンスフィクションと知りながら見ている。

変身へんしん!」

 だが、少年は違った。誰かを助けるための力を、心から求めた。

「なんだ?」

 目の前の木が光っている。何かに締め付けられるような違和感を覚えて、腕を見る。光が巻き付くように集まっていた。足にも、胴体にも。すべてが一回り以上おおきくなった。

 顔も同じようになっていることに、ジュンヤは気付いていない。なぜなら、ずっと周りが見えているからだ。

 光が消える。そこには、ギアロード・ソーグが立っていた。

『この鎧みたいなの、予告で見たことある』

 成人男性のようなシルエットから、ジュンヤとは違う低い声が響いた。暗めの赤い防具をまとった姿。ほかは黒に近い色。素顔はマスクで覆われて見えない。大きな視覚センサーが2個ならび、黄色い目のように見える。

(そうか。正体を隠すために、声が変わるんだ)

 口には出さず、頭の中で考えたジュンヤ。視線を前に向けると、隠れるために使っていた木がなくなっていた。

 川の近くから、黒い怪人かいじんに見られている。顔全体をマスクで隠して、目は見えない。それでも、さきほどまで追っていた女性を放置していることから、ソーグのほうを向いていることは誰の目からも明らかだ。

『オレが、ソーグだ!』

 川表の斜面を下っていく、ギアロード・ソーグ。

(歩きにくいな。いや、慣れてないだけだ。すごく強くなってるはず)

 芝生に囲まれるなか、黒い怪人かいじんがゆっくりと近付いてきて、対峙する。ごつくて迫力のあることが、近づいて初めて分かった。黒い防具が威圧感いあつかんを増している。

『早く、逃げて!』

 髪の長い女性は、まだ怪人かいじんの近くにいる。危険だ。右手を握り、怪人かいじんめがけて突き出すソーグ。怪人かいじんの動きが止まった。

(やったか?)

 黒い手で振り払われ、お返しに左手で殴られた。赤いヒーローは、ぶざまに尻もちをつく。

『なんでー!』

「ソーグ! 使用開始しようかいしっ」

 美しい女性が、大声で叫んだ。髪が風に遊ばれる。スーツ姿に初々しさを感じるほど若い。

(ソーグの力を使うってことか。強すぎるから、言わないとダメなんだ)

 立ち上がり、気合いを入れるジュンヤ。

『ソーグ。使用開始しようかいし!』

「ノウリョク、シヨウカノウ」

 銀色のベルトから機械的な音声が鳴って、腕と脚に変化が起こった。防具のあちこちが折れ曲がり、関節を動かしやすいように変形していく。

身体からだが軽い。いけるぞ)

 女性が満面の笑みを見せていることに、ソーグの中の人は気づいていない。

『ファイナルアーツ!』

 地面を蹴って跳ぶと見せかけて、ソーグは跳ばなかった。キックを使うと決めたときから、すでにエネルギーが足に集まっている。左足を軸にし、右足で中段蹴りをお見舞いした。

 両腕で防ごうとした黒い怪人かいじん。だが、むなしい抵抗に終わる。

 ソーグが足を振り切って半回転したときには、もう相手はいなかった。川の中まで吹っ飛んでいた。

 大きな音とともに、激しく舞い上がる水しぶき。

 これが、ギアロードキックの威力である。

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