第4話 卒業

 卒業式が終わって、皆が泣いたり笑ったりして高校生活最後の思い出を噛み締めているとき、私は理科準備室にいた。寮に帰ろうとした私を、先生が引き留めここに連れてきたのだ。


 理科準備室にはビーカーや試験管、名前を忘れてしまったガラス製の道具が所狭しと詰め込まれていて、二人が入っただけで窮屈だった。


 先生は教員用の机に腰かけ、私は椅子に座っていた。私はどうしてここに呼ばれたのか理由が分からず、ただ戸惑っていた。

 いや、理由なら分かっていたのかもしれない。分からない振りをしていただけで。


「ところで先生、なんのようですか?」


 私は多分、冷たくあしらうように言ったと思う。


「なに、今日で君とはお別れだからね。その前に話をしたかったんだ」


 実のところこの日までは、私も他の生徒と同じだった。変わっているが良い先生という印象を、静喪先生に対して持っていた。

 しかし、この日からその印象は変わってしまった。


「だって君、死のうとしてるだろ」


 この日から先生は私にとって厄介な人になった。私の本心を――本性を見抜く、苦手な人になった。


「だから伝えようと思ってね。生きろなんて無責任な言葉を言うつもりはないけれど、死ぬんじゃないって言うことだけはしようと思ったんだ」


 表情はいつもと変わらず静かな雰囲気なのに、なぜか優しい口調だった。


「いつか必ず、君に会いに行くから。それまで死なないでいるんだよ。分かったね」


 先生は教師のように、生徒である私に指導した。愚かな考えを持つ生徒に、それはいけないよと伝えた。


「そして、次会うとき私は――」



 先生はあの時、なんと言ったんだっけ?

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