名前とか、呼び名とか(要するに前振り)

ある日、食卓で神木がこんなことを言い出した。


「君ってどうして私を苗字で呼ぶの?」


「そこまで親しくないからだ」


俺は淡々と言葉を返した。


「でもいい加減にお互いに歩み寄ろうよ?私だって結婚とか関係無しに君とは仲良くしたいし」


いつになく神木が真面目な話をしている。


「・・・明日は雪が降るな」


「何言ってるの?まだ夏だよ」


意外と神木には冗談が通じなかったりする。


「俺はそこまで呼び名は気にしてないんだがな」


「私は気にするの!」


今日の神木はやけにムキになっている。


「正直に言ってみろ。何が目的だ?」


俺は尋問のように、神木に高圧的な態度で質問した。


「も、目的なんて・・・。ただ環ちゃんは名前で呼ぶのに、私は苗字なんだなぁ・・・と思って」


「なんだ。そんな事か」


「私にとってはそんな事じゃないの!幼馴染と婚約者で、どうして格差があるかって言ってるの!」


誰だ婚約者って


「要するに、あなたが私を名前で呼べばいいだけなのよ!」


「でも今更言い方変えるのもな。それに環は昔からそう呼んでるだけだし、格差とかはないぞ」


俺はため息をつきながら、食器を洗った。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


この日はバイトもなく、特別予定も入っていなかったので、久しぶりに外に出ることにした。


神木か環を誘おうかと思ったが、神木は今誘うと面倒だし、環もどうやら練習が入っているようだった。


どうせだったら誰かに神木の事を相談しようと思い、一人の人物に電話を掛けることにした。


「あ、もしもし千咲さん?」


『あら、昔の女に声を掛けてくるなんて悪い子ね』


「そのノリ誤解生みますからやめてくださいよ・・・」


『それで?その若い肉欲を年上の美人お姉さんにぶつけたくなったの?』


「まあ肉欲っていうか相談なんですけどね」


『いいわよ、貴方なら・・・あっ、環ちゃんのお家の喫茶店で待ってるねー』


一体あの人はどうしたいんだろうか・・・?


俺はそんな事を思いながら、喫茶店へと向かった。


「いらっしゃいませ、お客さんは奥に座ってるよ」


いつものように環のお母さんに挨拶と、いつもの注文を済ませると奥の席に座った。


「すみません、待ちました?」


「ううん、今来たところだよ」


先に運ばれてきたであろうコーヒーに口をつけながら千咲は言った。


「それで相談って?神木ちゃんか環ちゃんの事?それとも私のキャラが薄すぎて無理矢理にでも登場させるため?」


「前者です。後者は作者の相談です」


「まぁそんなところだと思ったわよ」


だったら何故2つ選択肢を出したんでしょうか。


「それで相談っていうのが・・・」




「・・・そんな事があったんだ」


「まだ何も言ってないです」


そんな冗談も交えながら、俺は神木についての話をした。


「凛ちゃんは下の名前で君に呼ばれたいのね」


「俺には呼ばれたい理由も分からなくて、どうしたらいいんですかね」


千咲さんはしばらく頷いてから、話を切り出した。


「それってヤキモチでしょ?」


「ヤキモチ・・・ですか?」


すると千咲さんは、もう一度大きなため息をついた。


「君は女心を分かっていない!」


「えっと・・・多分そうです」


「だったら覚えておいて。女の子はほかの女の子に優しくしたり、特別扱いしたら、それ以上の同じことをしてあげないとダメなんだよ?」


「は、はぁ・・・」


正直、イマイチ理解出来ない。


「プレゼントの一つでも買ってあげて、それから下の名前で呼んであげれば女の子なんてなんとかなるよ」


それでいいのか千咲さん・・・


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「神木、ちょっといいか?」


「ん?どうしたの?」


俺は神木の前に一つの包装された紙袋を出した。


「最近、仕事頑張ってるみたいだしな」


「くれるの?」


俺がつき出すようにして神木に紙袋を渡すと、神木は袋を開けた。


「わぁ・・・綺麗な髪留め」


「これからもピアノも仕事も頑張れよ、凛」


すると彼女は少し驚いた表情を浮かべたが、すぐに笑顔に戻った。


「ところでこの髪留めって1人で選んだの?」


「いいや、千咲さんに手伝ってもらったけど」


「また隠れてデートですか、そうですか・・・」


・・・・・・女ってめんどくさい!

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