第23話 Strange end
「ど、どういうことなんだ……」
「簡単なことですよ。皇帝は未知の情報に貪欲すぎた。そこを利用したに過ぎません」
「と、いうと……?」
国家情報管制室。スクリーンの前で美洋が近藤に説明を始める。
スクリーンに映っているのは表彰されたハイド。堂々と1位の表彰台に上る。2位は皇帝。だがその姿はない。
そして3位に、美洋のキャラクターが映っている。
「もともとこの大会は恐らくですが【皇帝】の成長が目的だったのでしょう。恐らく優勝賞品も嘘。いろいろな国のエージェントなどを参加させるための方便だった」
「それは分かっているが……どういう関係が……」
「簡単なことです。成長して手がつけられなくなる、というのは正しい方向に、私達にとって厄介な方向に成長した場合の話です。それなら逆に間違った方向に、私達に御しやすい存在にしてしまえば良い」
「もしかして……皇帝と美洋君が闘ったときに美洋君が変な動きばっかりしてたのって……」
「ええ、第一競技から第三競技まで、見ている限り僕やハイドに特に注目していたみたいなのでそれを逆手に取りました。それに大会的にも最後は個人戦が行われるとは思ってましたしね」
「そ、そこまで……。ではハイド君が先に闘うことになっていたらどうするつもりだったんだ?」
「その時はハイドが間違った手を指して皇帝を同じ風に狂わせる予定でした。皇帝より先にハイドと闘わねばならない時が一番面倒だったんですけれどそうならずにすんで良かったです」
「そうか……確かにな……確率的に先にハイド君とぶつかることになるのは二分の一。よくそんな博打に出たものだ」
「いえ、博打でもないですよ。その時は真っ向から叩きつぶすだけですから。あくまで今回はこれが楽だったと言うだけです」
「そ、そうか……」
のんびりと、弛緩しきった部屋の空気、職員たちも元凶である【皇帝】を美洋が壊したことに安堵する。
そのとき、
『我は皇帝我は皇帝我は皇帝! 最適化! 最適化! ゴミの削除削除削除!』
画面に、大会が終わり今は何も放送していないはずの画面にラグが走る。
「な、なんだ?」
が、そのご、一瞬の後にそれも消え去った。
「……本当になんだったんだ?」
〇〇〇
「こら! 【皇帝】の自滅プログラムを教えなさい!」
「い、いやだああ! あれは僕の作品なんだ!消されてなるものか!」
『我は皇帝』という放送が流れる数分前リーシャたちはいまだに男と取っ組み合いをしていた。ピノキオの方はというとその場にあったものでなんとか【皇帝】を自滅させることができないかと戦っていた。
ハイドが【皇帝】に勝ったその後、愕然とする所有者の男に手錠をかけた。そしてその直後、その場のスクリーンの計器が【皇帝】が暴走し始めていることを示していたのだ。
「リーシャ! だめです! 抑えきれません! このままではネットを通じたすべての場所に【皇帝】が拡散されてしまいます!」
不快な警報音が鳴り響きその中でピノキオの苦しい声が響く。
が、
「あれ? 止まった?」
「とまり……ましたね?」
「うそだああ! 僕の! 最高傑作の皇帝があああああ」
異常を伝える警報はすべて止まり、【皇帝】の跡形は全く残っていなかった・
全消去である。
〇〇〇
「ただ今帰りました~! 美洋さん久しぶり~です!」
表彰式が終わって三時間後、マッドティーパーティー確保のために動いていたリーシャも情報管制室に帰ってくる。現在そこでは打ち上げと称していろいろな飲み物食べ物が並んでいる。
その中でリーシャは赤髪の少女と美洋を見つけると即座に駆け出した。
「い、リーシャ。お疲れ様。随分と危険だったみたいだね。怪我はない?」
「美洋君! あんまり優しくしたらこの女はつけあがっちゃうから要注意だよ!」
優しい美洋に刺々しいハイド。リーシャは激しい戦闘から和やかな日常へと帰ってきたことを自覚する。
「なによ~! こんな可愛い顔して毒舌を吐くのはこの口か~! 私だって今回頑張ったんだよ~? きみが【皇帝】倒した後また進化してたの知ってる? それ壊したの誰か知ってる?」
自分よりもはるかに小柄なハイドの頬を両手でつねるリーシャ。体格差もあってハイドは逃げられない。
「ひゃ、ひゃめふぇふははい!」
やめて下さい、と言ったのだろうがその声は虚しく響くだけだった。
繰り返すこと1分。ひたすらハイドを弄り倒したリーシャは美洋に疑問に思っていたことを聞く。
「ところで美洋さん。優勝賞品にはなにを貰ったんですか?」
「ああ、そこのパソコンに入ってるよ。君が帰ってきたら開けようと思ってた。というか君がいないと開けられないみたいでね……」
少し気まずそうに言う美洋。
「ん? 私にしかですか? 美洋さんが開けられないなら私に開けられるはずがないのですが……」
パソコンを立ち上げてファイルを確認するリーシャだったが、その声は途中で止まり、顔を真っ赤にする。
「だからその……言っただろ?」
「な、何の罰ゲームですかあぁ……」
画面に表示されているのは六桁の数字を打ち込む画面。そしてその下にある文章は……
「なんで私のスリーサイズが解除ロックになってるんですかああ!!」
「僕にも分からない……」
実際に六桁の暗証番号程度であれば美洋なら総当たりでも解くことは可能だ。なんならハイドに頼んでもできる。しかしそれでは美洋達がリーシャのスリーサイズを知ることになると思い自重していたのだ。
「打ちますよぉ……もう……なんでですかぁ……」
帰ってきたときとは一転、どんよりとした顔になりながら数字を打ち込んでいく。
と、帰ってきたのは懐かしさを感じる声であった。
美洋もハイドも、二人がそろって危険を感じ一歩後ずさったが。
『優勝おめでとう!! 美洋君! そしてハイドちゃん! 久しぶりかな。私のことを覚えていてくれたら嬉しいな!』
パソコンの画面一杯に裸に毛布一枚の少女が映し出された。
美洋達は驚く。たが、それは少女が裸同然だったことに対してではない。
『【トランプ兵】アリス! 再登場! 今度は【赤の嬢王】として君達と闘おう!』
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