第15話 Good by

「ねえ! 美洋さん! 本当にあれでよかったんですか!」


 あのあとすぐに駆けつけてきた警官に美洋はあっさりとレイの身柄を渡した。その淡白さにリーシャは疑問を呈さずにはいられない。


「うん、十分だよ。僕の今の仕事は犯罪者を捕まえること。家族だろうがなんだろうが、そんなことは関係ない」

「そう……ですか……」


 リーシャは納得のいかない表情であったが、美洋のほうは話はこれで終わりとばかりに美洋は部屋を出る。その後ろにハイドがぴょこぴょこと歩いていく。


「ま、待って!」


 とっさにリーシャの口から制止を呼びかける言葉が出てくる。急いでるわけでもない美洋たちは歩む足を止めると振り返る。


「なにかな? リーシャさん」


 不思議そうに振り返る美洋にリーシャは言葉を失う。だが、どうしても言いたいことがあった。


「あ、あの……あの時は助けてくれてありがとう」

「あの時……ああ、いやいや、僕たちこそリーシャさんがいなかったら危なかったよ。ありがとうね」


 なんでもない風に美洋は返す。もっともすでにお互いにこのことに関しては礼を言っていたので美洋たちはどうしてリーシャがここで、加えて顔を赤らめながら言うのかはわからなかった。


「ま、また……ピノキオが動くようになったら仕事がはじまるので……その時はぜひよろしくお願いします!!」

「うん、こちらこそよろしくね」


 そして美洋はやってきたエレベーターに乗り込む。扉が閉まるまで、リーシャの視線をうけながら。


〇〇〇


「ふう、私がいまから行くのはどこかな。天国かな。地獄かな。はたまた不思議の国かな」


 歌うように、護送車の窓から空を見上げる女性レイ。もっとも車の窓は光をほとんど通さずほとんど何も見えないが……


「さて、やはり美洋君は美洋君だったな……。淡々と事実のみで犯人を捕まえる。動機くらいは聞かれると思っていたがね……」


 誰に聞かせるわけでもない独り言。横に控える警官も耳を立ててはいるが特に口出ししてこない。


「まあ、私もその程度の認識だったのか、それとも全員に対してあの程度の対象としてしかみていないのか……不思議なところではあるな。数年一緒にいたがあそこまでとは」


 すこし寂しそうなため息をつくレイ。彼女からしたら美洋はわが子同然であり、親友真希奈の弟として大事に育てきたつもりだ。


「まあいい。これで私の役割は終了だ。リーシャの実力こそ図り損ねたが問題はなかった。計画通りに二人を引き合わすことができたしハイドのデータもある程度収集できた」


 そう言ってもう一度空を見上げる。何も見えないのがスモークガラスのせいなのか、それとも曇りだからなのか、彼女には判別がつかない。


「これでよかったのよね……真希奈……」

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