第2話 檸檬香る翻弄

 貴女はどこにいますか?


 あのね、急にいなくなったの。



 私は森の木の上に器用に立っていた。大きな木の上のてっぺんにいて、酸っぱい匂いに顔をしかめる。私はバランスをとりながら丁寧に丁寧にその爆弾をどうにか、木の上の皿に置こうとしている。心を落ち着けて。爆弾は酸っぱくて爽やかで、風が吹けば香りが広がる。こんな小さいのにどうしてこんなに心が揺さぶられるのか。


 私は木の下に豚がいるのを知ってる。豚は草の輪っかに絡まっている。この爆弾を落としてしまえば豚は死んでしまうだろうし、私が立っている木もきっと折れてしまう。


 私がこの皿にそーっとこいつを置く以外に助かる道はない。そんな妙な緊張感で冷や汗をかくなか、また私は声をかけられる。


 さっきと同じ声。私をさらった声。



 あのね、いなくなったの。


 あのね?私は今忙しいの



 見てわかんないの?返す。彼女の方を見ずに私はバランスをとる。


 彼女は私に話しかけ続ける。



 あのね、さがしてるの

 急にいなくなってね?

 見つけたんだけどまた逃げて

 私はまた追いかけてるの


 嫌われてるんじゃないの


 一緒に探して?


 嫌。


 ねえ、どうして?



 どうして?私はこいつをなんとかするのに忙しいからよ。もっと暇な人がいくらでもいるでしょ?私は怒って言った。少しスッキリするような、なんだか違和感があるような変な感覚だなあ、と思っているうちにバランスを崩す。


 手の中に収まっていたはずのそれは、私からするりと抜けていった。


 あーあ。

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