RITAPOP

リーキ

第1話 リタの迷い

俺、中央区第2部隊作戦参謀 桜坂理太郎少佐は迷っていた。


「桜坂少佐。さっきから、執務室でずっと怖い顔のままだぞ。」

「今扱っている作戦をきっと考えているのよ。」


怖い顔をしている訳じゃない。真剣なのだ。

慎重に考えなければ、この選択は今後の未来を大きく変える。

焦るな…。

まだ時間はある。

慎重に、慎重に。

よし、一度情報を整理しよう。


定食Aはから揚げに付け合わせのキャベツ、野菜の小鉢にご飯にみそ汁。

定食Bはポークカレーライス。サラダとヨーグルト。


どっちだ…。


今日の昼を食堂日替わり定食AにするかBにするか。

選択を間違えば午後の仕事のモチベーションに関わる。

俺の昼食の時間まではあと10分。


「歴戦の少佐も、あの作戦には苦戦しているんだな。」

「でもきっと大丈夫よ、少佐なら!」


外野はうるさい。静かにしてくれ。あとその件はもう終わってる。早く提出すると早く次の仕事が来るからギリギリまで提出をしないんだ。


いつもなら迷わずポークカレーを選択する。カレーは裏切らない。いつも俺に優しい。

だが、昨夜食べてしまったのだ。

カレーライスを。しかも2杯。

そうなると定食Aになるのだが食堂のから揚げはもも肉のから揚げじゃない。むね肉なんだ。味は良いのだが、ぱさぱさして固い。たまに、どういう訳かもも肉のように柔らかいのもあるが今回はそれとは限らない。確率は低いだろう。

正直カレーが続いても問題はない。

だが、なんかもったいない気がする。

せっかく軍の職員は利用し放題なら有効に使いたい。

でもむね肉のから揚げはな…。顎が疲れる。

あと5分…。

どっちだどっちが正解だ。


「リタ!なーに怒ってんだよ!」

ノックもせずに執務室に金髪の派手な顔立ちの男-諸墨左之助大尉が入ってきた。彼は俺の学生時代からの友人だ。あと扱いやすい副官である。

「怒っていない。迷っているんだ。」

ああ、考えがまとまらない。

「まさか…。とうとう実行するのか!?篠宮のデスクにブーブークッションを仕掛けるのを!!??」

ちなみに諸墨は軍では『黄色い閃光』という異名を持つ槍使いだ。脳内は小学生だが。


「何を言ってるんだ。食堂の定食をAにするかBにするか迷っているんだ。」

「なーんだ、昼飯のことか。」

「お前は昼は終わったのか?」

「さっきな!から揚げ食べたぜ!うまかった!」

「そうか。」

こいつは食べれれば大体うまいという大食漢だ。あまり食レポには期待できない…だが、情報は必要だ。

「なあ、諸墨。から揚げは柔らかかったか?」

「普通じゃね。上手かったぞ!」

普通ってなんだ。普通って。お前の普通の柔らかいはもも肉の柔らかさなのか、それともむね肉なのか。諸墨の場合、軟骨も十分あり得る。

「今日ドレッシング切れててマヨネーズだったんだよな。俺、キャベツには胡麻ドレが良いのに。」

「マヨネーズが出でいたのか?!」

「おう。出ていたぜ。」

状況が変わった一気に定食Aの波が来ている。


マヨネーズ。それは神が人類に与えた魔法の調味料。これと合わせればどんな食べ物でも世界一美味しくなる。

むね肉のから揚げに合わせてみろ。むね肉の淡泊な味に感謝し続けるだろう。

普段の食堂ではマヨネーズはほぼ出ることはない。多分、コスト的な問題だ。

それが今日出ている。

だが一つ問題がある。

出ているマヨネーズが普通のものかダイエットタイプか。

ダイエットタイプのマヨネーズ。不味くはないが、コクが足りない。なんか物足りなくなる。できれば普通のマヨネーズ、真紅のキャップが良い。

「諸墨、今からお前に大事なことを聞く。良いか?分からなかったら、分からない言うんだぞ。」

「お、おう。」

「マヨネーズのキャップは赤か?黄色か?」

「赤だったぜ!業務用のでっかいのだった!」


やった。なんて、ことだ。

素晴らしい。

世界に拍手、むね肉に拍手、マヨネーズに拍手、食堂のおばちゃんに拍手。


「ありがとう。諸墨。お前が俺の友人で良かった。」

「へ?こちらこそ?」



時は来た。さあ行こう。定食Aとマヨネーズが待つ楽園へ!!!!

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