第17話水晶の死者

遥かなる旅路の果てに散ったあなたの手紙を胸に抱いて、万年筆の筆跡を指でなぞり、ふたりで重ねた年月を思えど、死者にゆだねる言葉もなく、月長石のロザリオの珠の一つひとつをにぎりしめて祈りの言葉を唱えれども、神の御許におらぬとあっては甲斐なくて、己の無力を噛みしめるばかり。あなたの遺した鉱石も光を失い、石塊と成り果てました。水晶を殊に愛したあなたの亡骸は、遠い異国の水晶窟で見つかったと聞いています。あなたのことです、そこをこの星で最も清い死地と定めたに相違ない。この世の未練も断ち切って純真な水晶のひとかけらとなって地中に留まり、やがて数百億年を経て、巨きな水晶に貫かれてこの星は滅びることでしょう。


第五十六回Twitter300字SS お題「旅」

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