第15話澄むが如し

ああ清水に晒されて、手の骨までしみ入る冷たさに、誰を恨んだとて仕様がない。貴人に連なる母の家が傾いてからは、日夜を置かぬお勝手働き。子守の娘の哀しい子守唄を聞きながら、明日の我が身を嘆くのも習い性。万葉の昔から貴い殿方を夢見て荒れた我が手を抱くのは世の常なれど、私の夢にお出ましになったのは尼僧でした。双の白鶴が舞う尼寺の襖を背に、数珠を携え座しておられるのを見たのです。御仏のように打ち笑むお姿、花の唇からお経がこぼれるのを耳にして、日々の苦しみも忘れました。夢より覚めてなお残る御名の響きは、今際の際まで胸の内にしまっておきとうございます。せめて浄土でお目にかかれることを祈るばかりです。


第五十四回Twitter300字SS お題「水」

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