第5話秋愁抄

兄さま兄さま遊びましょ。秋の日の夕暮れに鴉が鳴けば幕は開く。桔梗に撫子女郎花。すすき野に昇る三日月の下で身の毛もよだつ宴をはじめましょ。ここに見えるは隣のお屋敷の離れに眠る病める少年、かつて雛僧として和尚に仕えていたけれど、溺愛されるあまりに恥ずかしい病を患ってからというものの、人目を避けて閉ざされて、手足は生白く、顔には夜な夜な化粧を施してひとり寝のもの寂しさを慰めているふしだらな少年。おっ死んだところで咎める者とてありません。緋襦袢をはだけて、露わになった青白い肌に秋草の露を一粒、また一粒と乗せて舐めれば甘露の味がするでしょう。朝日が昇るころには数多の蟲や獣が寄ってきて、たんと蜜を味わうわ。野ざらしになった体をだれが看取ってあげるのかしら。あの殺生石よろしく旅の僧が供養するまで朱の血はとめどなく流れつづけて秋草の糧となるでしょう。淫らな血をたんと吸った桔梗を一本くださいな。天に昇るお月さまに捧げれば、地上に堕ちた哀れな息子を優しく慈しんでくださるでしょうから。


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