Zに至る物語

芦間喜八

第1話 prologue

「どうでもいい」

 そんな言葉が、私の口癖だった。

 他人のことも、何も、かも。私のことですらその一言で吐き捨てられる。

 何しろ私は屍体ゾンビで、生きてなどいないのだから。

 コタール症候群という病名を知った。自分はゾンビであるという虚無妄想を代表とする鬱病の一種だ。

 それで思い出したのは小学生のころ、幼馴染の茜とお化け屋敷に入ったときのことだ。

 そこには安っぽいオブジェが並んでいた。人体模型の何が怖いというんだろう。私はそんなことを考えていた。それに対して隣の茜は年相応の反応をしていた。

 私は置いて行かれた。動くゾンビのオブジェを見るなり、茜は悲鳴をあげ、走り出してしまった。

 私はそのゾンビのオブジェを観察した。あまりにチープだ。しかし、暗い中でも輪郭のみえる黒々とした肌に、鮮やかに赤い血管に、いびつな形になってしまった顔に、私は釘付けになった。


 しばらくしたら母親がお化け屋敷の中まで迎えに来た。聞いてみたところ私は一時間近くそこにいたらしい。

 その日から数日、私は屍体のことばかりを考えるようになった。

 私は屍体ゾンビに魅了されてしまっていた。

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