捜索

「 森さんはここのところ家に帰ってないようですね 」

 竹下はポストに入った新聞を数えている。


「 いま時、一人暮らしで新聞取るなんて、珍しいですね 」

「 そうですね。地方紙ですし、なおさらです……、ん? 」

 竹下は首を傾げた。


「 なぜ中沢くん、あなたは彼が一人暮らしだ、と決めつけたのでしょうか? 」

「 えっと……それは……あまり綺麗にされていませんし、二人で住むには狭いかな、と思いまして 」


 竹下は確かに、と言った。

 入り口から見る限りだがかたずけがなされてない。

 服や紙が散らかっている。

「 お世辞にも、綺麗とは言えませんねぇ 」


 二人はポケットから白い手袋をした。

 竹下の手慣れた感じがなかなかである。

 竹下は机を凝視した後、その引き出しを漁り始めた。

 中沢はウロウロ周り、落ち着かない。


「 馬場さんたちいつ来ますかね。僕たち、即座に追い出される運命ですよ。」

「 次の特急の到着まで30分はあるはずです。その前に…… 」

 彼は目を輝かせた。

 引き出しの中に一枚の写真があった。


「 あの、なにも移動手段が電車に断定するっていうのはどうなんですかね。というか電車に乗っているのは我々くらいなもので…… 」

「 それはそうとして、ほら、写真ですよ 」

 制服姿の生徒が三十人ほど笑みを浮かべていた。


「 これ、持って行きましょうか 」

 中沢が袋を出す。

 すると玄関が爆音をたてて開いた。

 息を切らした馬場と長沢がいた。


「 おめーら!なにやってんだよ! ぴーぜーぜーー 」

 土足のまま奥へと進んで行った。

 中沢が「 人間生活。 」とぼやいたが睨まれてそれっきりだった。


 彼のポケットから領収書が落ちた。

 中沢が拾った。

「 特急ひたち…… 」

 特急券の領収書だった。


「 おめーらだろ!俺の車に穴開けたやつ!証拠ならわんさかあるぞ!分けたろうか!お裾分けしたろうか! 」

 竹下はまあまあ、と宥めた。

「 タイヤ代と電車代は私がしっかりとお返しします。特急代は、まあ、普通列車でも来れたわけですし 」

「 ……乗車料金とタイヤ代、警視庁の机の上に置いておきますね 」


 中沢は竹下の発想とせこさに口が塞がらない。

 タイヤを潰してまで時間を稼いだ彼はよくわからない、というふうだった。

「 竹下さん、車で来たらもっと早く着いたのに…… 」


 長沢が一人様子を外から伺っている。

 北風が彼を包んだ。

「 寒っ 」

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