第5話

ある年のこと。

その年の冬はひどく早くやってきて、おまけにとてもとても寒かった。

北の大陸の一番北では沢山の動物たちが凍え死に、幾日も降り続いた雪は、あと数日で新しい年になる日の夜、とうとうひどい吹雪になった。


(ああ…なんて冷たい風なんだろう…)

強い強い北風に根から倒れそうになりながら、モミの木は考えていた。

(僕はどうして、こんな所にいるのだろう…)

モミの木は、もう倒れてしまおうか、と思った。

また、そうしたらどんなに楽だろう、と考えた。

(もう、倒れてしまおう…)

モミの木がそう、心に決めたとき、風の間から何か音が聞こえた。

(なんだろう?)

モミの木は音のした方をじっと見つめ、そしてびっくりした。

今まで自分には近づこうとしなかった動物たちが、大勢こちらにやってくるのだ。

動物たちはモミの木の枝の下に潜り込むと、雪を払い落とし、ほっと溜め息をついた。

「助かった。ここには風は吹かないぞ。」


一番上の枝は、雪をふせいだ。

一番下の枝は、風をふせいだ。


「お母さん。」

子うさぎの母親に話しかける声が、モミの木にも聞こえた。

「この大きな草があって、よかったねぇ。」

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