第16話

部活を正式に登録して始めの茶道。先輩たちは、精神統一でもしているのか目をつぶっている。

「雛ちゃんも、隼人くんも目をつぶって」

僕は、先輩の言われた通りに目をつぶる。何も考えないように意識を集中させる。それから何分たったのだろうか。どこかで物音がする。

「やめ、礼」

僕は、周りにあわせるわけではなく、部長の指示に従う。もう誰も精神統一していないのに同窓会館内は物音ひとつしていない。

「今日は、新入生に茶道の基本を教えたいと思います」

部長は、先程の物音の正体であっただろう茶道の道具を手にし、説明を始める。僕は、軽く流した。

「お先に」

部長は、背筋を伸ばし一礼する。

「これは、先にお茶を飲むときに必ずするの」

隣で先輩(見学したときに名前を聞かれた先輩)が解説する。部長は、茶碗を左手にのせ、右手に添える。そのあと左に二回ずらす。

「正面から飲まないようにするために左にずらすの」

部長は、空の茶碗を口元に運ぶ。それは非常に上品で艶やかだった。



「最上くん、どうだった?」

帰り際、また鮎川さんと帰ることになった。

「いや、別にそんなには……」

僕は正直な感想を述べてしまった。しかし、鮎川さんは、笑っている。

「大丈夫だよ。私だって、少しつまらないって思ったし」

鮎川さんは、僕のことをじっと見ている。

「たとえ、入れ替わって思ったことが同じでも自分じゃない気がしてならないよね。明日、元に戻れるか賭けしよう。あの河原で待っているから」

そう言って、鮎川さんは走り出してしまった。



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