僕は君で、君は僕

花月姫恋

第1話

僕の母は、妹に暴力を振るっている。何でできないの。お兄ちゃんは、できているでしょ。といいながら、まだ小学三年生の妹にアザというアザをつけさせる。


僕の母は、僕が生まれる前に本当の父と別れ、僕が、小学三年生の時に今の父と再婚した。今の父は、いつも海外を飛び回っているようで一年に一度帰ってくるかこないかで定かではない。そのため、思春期の時、女しかいないところで暮らすのは、とても窮屈に思えたほどだ。妹は、あまり僕と話したがらない。きっと、僕をだと認めてくれないのだろう。僕も、妹が来て一年くらいは、まだ義理ではなく赤の他人という認識であった。だが、人は、ひとつ屋根の下で一年暮らすと他人と思わなくなるのだろうか。もしかしたら、あの時の僕は、人見知りではなかったのかもしれない。


いつから母は、豹変したのだろうか。ああ、確か僕が小学五年生の時だ。あの時の僕は、小さいながらガールフレンドがいて、今で言うリア充を満喫していた。キスみたいなエッチーなことはしてはいないがお互いが好きでもあったし、大切にしていた。だが、それはいつしか、幻滅に変わる。


ある日のことだった。その時は彼女と遊んでいて帰りが遅くなり、家に帰ると母の怒号が聞こえた。僕は小さく謝ったが、その矛先は僕に向けられたものではなかった。僕はそっとリビングに行くと、受話器を持ち、今まで見たことのない形相で受け答えしていた。

「どうして? どうして転勤になるの? 私、 言ったよね。隼人一人のときより遥の面倒見る方が大変なんだって。どういう意味かわかる? 落ち着きがないって言う意味よ」

僕は、あの時、親というものはどれだけ面倒な仕事を任されているのかをはじめて知った。それは単に、僕の母が子どもが嫌いで思いやりがないだけかもしれない。きっと、実父と別れたのはその性格だったからだろう。

「とにかく、私は、遥を私の娘だと認めないから」

これは、もう別居なのではないかと不謹慎ながらワクワクしたが、同時に妹が可哀想に思えた。

それを境に母の妹への態度が変わっていった。そう、まるで、日頃の鬱憤の解消でもしているかのように何度も妹に手を出す日々。僕は止めようとしたが、足が出なかった。母を前までの母に戻そうと策を考えたが、何かで踏みとどまる。何をやっても無駄だと。


妹は、はじめて家にきたときとは違い、元気をなくしていった。義父から聞いた話だと、僕と違い、人見知りでなかなか友達ができないのだという。できたとしてもすぐに転校してしまうらしい。そんな妹をかわいそうだと思った僕は、一度だけこんなことを聞いたことがある。

「寂しくないの?」

しかし、妹は首を振った。

「一人の方が、楽でいい」

小学二年生が、そんなの大人びた発言をするのは一体何が当たったのかと疑ったがそれは、いとも簡単に納得できた。そう、何度も訪れる父の転勤。


転勤が決まって、海外に行くことになったとき、母は、空港でさえも連れていってくれなかった。本当は、妹と二人で行きたかったが、小学生は大人と一緒という縛りがあり義父の見送りには行けなかった。妹は、うんともすんとも言わず、ただ、自分の部屋に引きこもっていった。僕は、そんな妹の様子を見に二階に行こうとした。

「隼人、買い物行ってきて。」

まるで、あんな子ほっておけとでもいうかのような口ぶりで僕を外に出す。


帰ってきたときには、二階から女の泣き叫ぶ声しか聞こえなかった。その声は怪物のようだった。

「どうして、どうしていつも私はおいていかれるの?」

そんな嗚咽を漏らしたとこで事態は変わるはずもないのに。僕はもしかしてと思い、階段を急いで上り妹の部屋に行く。そこには、この世で一番怖い怪物にやられた小動物がいた。その小動物は、口から胃液か何かを出している。

「母さん」

僕は、ただそう声をかけた。その怪物は、ゆっくりと僕の方を向いた。その目は獰猛な獣の目とそっくりであった。


それは、数年間も続いた。




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