第10話 修行風景

 ――そして、半年後の現在


 騎甲に関して天才的才能を持つリシェンだが、一つ大きな問題があった。

 それは魔法スキルの適正が無いため、魔法を身に付ける事が出来ないという事。

 戦闘でも騎甲の製造でも魔法スキルは必要なのだ。


 そこで、レジとボロはリシェンの今後の教育方針を考えた。





 結果、出たのは――


 ”騎甲に関して製造技術は捨て、知識と騎甲の扱いにのみ特化させる”


 ”戦闘技術はリシェンが持っていた指輪に仕込まれている機械式武装指輪アームズリング”ウエントリヒ”を主武装として鍛え上げる”


 ”騎甲の製造技術及び魔法スキルによる戦闘技術の強化はリシェンの特殊スキル【トウトマシン】を習熟させて代わりとする”


 ――の三つの方針であった。





今日も今日とて工房兼家の外で鍛錬に勤しむリシェン。


「ほらほら! まだ脇が甘い!」


「グッ!?」


 レジの大剣による苛烈な一撃がリシェンを襲う。


「痛みで隙を作るなって言ってんでしょうが! 動き続けながら【トウトマシン】で怪我の度合いに応じて回復薬を体の中で作る! 効果が高い回復薬だと作るのに余計な時間が掛かって隙が生まれるよ!」


 蛇剣の刀身がバラけて鞭形態になり土煙を上げながらお返しとばかりにレジに襲いかかる。


 ちなみに、今、二人が使っている武器は、ボロが鍛錬に用いるために二人の専用武器を再現して作った殺傷能力が無い訓練用の物だ。


 それでも当たればかなりの激痛が伴う。


「目眩ましからの攻撃か。 悪くないけど気配で位置がバレバレよ!」


 レジは砂煙で姿が隠れる前のリシェンの位置、気配、移動速度、攻撃方法を瞬時に分析してリシェンの次の行動を予測する。


「そこ!」


 レジはリシェンの位置を特定すると迷わず突進して大剣でリシェンに攻撃を加える。

 しかし、リシェンは僅かにズレた位置でレジを待ち構えていた。


(自分の気配の位置をずらした! まさか、短期間でここまで腕を上げるなんて!)


 息を切らせながらウエントリヒを銃砲モードに変形させて銃口をレジの頭に突きつけるリシェン。


「……やるようになったじゃない」


 大剣を地面に置き、降参すると思いきや、後ろ回し蹴りで銃砲を蹴り上げ――


「やると思った!」


「しまっ!?」


 レジの蹴り上げるタイミングに合わせてリシェンはウエントリヒを一回転させ蹴りを外して体勢を崩したレジの顔面に銃口を再び突きつける。


「……はあ、今度こそ参った。 合格よ」


「うしっ! やった! これで義父さんに遺跡に連れてってもらえる!」


「その武器をここまで使い熟せれば上出来よ。 魔獣にも遅れは取らないわ」


 リシェンが持っていた指輪をボロが鑑定した結果、指輪は古代に作られた機械式武装指輪アームズリングと言う物であり、魔道具より上のランク――聖具のさらに上の”神具”に匹敵する大変貴重な一品であった。

 

 機械式武装指輪アームズリング”ウエントリヒ”は基本形態の手甲とそれに付属する盾に護拳、蛇腹剣、銃砲の三つ武装を内蔵、近・中・遠距離対応の万能武器でリシェンとの相性は抜群であった。


 ちなみに、”ウエントリヒ”の名は指輪の表面部分に古代語で刻まれていた文字から取ったものである。


 だが武器はともかく、今の時代は戦闘技術において身体強化は必須である。

 身体強化は魔法スキル以外で技能スキルに【気功】というものがあるのだが、レジはその会得方法を知らない。

 だからリシェンに教える事が出来ない。


 リシェンが魔法スキルを使用出来ない事に三人は悩んだが問題はすぐに解決した。


 【トウトマシン】の使用である。


 【トウトマシン】は万物――この世のありとあらゆるものをマナに分解できるが、創造する場合は物質に限定される。

 

 例えば細胞の塊である肉を【トウトマシン】で作り出す事は出来てもその肉の生命活動は完全に停止している――”死んでいる”状態なのだ。


 つまり、【トウトマシン】は生命(生命活動)やエネルギーに関わるものを再現したり作り出す事は出来ない。


 しかし、【トウトマシン】にはもう一つ、能力が備わっている。


 リシェンが試してみるとレジの予想通り、この能力を使う事で魔法スキルによる身体強化を再現する事に成功。


 続いて、【トウトマシン】で瞬時に魔法薬を作り出し、体内に注入する事で様々な状態を瞬時に回復する所謂ドーピングも身につけさせた。


 リシェンは不老不死と状態異常回復の能力も持っているが、魔法薬による回復効果の方が回復速度が早いのだ。


 ただ、こちらの方法は、リシェンに身に着けさせる様々な薬を手に入れるお金の工面が面倒なので、手っ取り早く街の薬屋やオークションでに出品される希少な魔法薬をバレないよう(バレると犯罪に問われる可能性があるので)こっそりと【トウトマシン】に学習・記憶させた。

 

「おお! やっとリシェンを遺跡に連れてけるのかあ! 人手が欲しいと言うのに連れて行くのをお前に反対されまくっとからなぁ。 まったく、レジは過保護でイカン!」


「用心に越した事ないでしょ! それにアンタと違ってリシェンは逃げ足が速かないんだから!」


「ガハハ! 違いない!」


 レジは暗にボロは逃げ足だけが自慢と嫌味を言っているのだが、ボロはそれに全く気づかないどころか褒められたと勘違いしている。


「――と、言いうわけで早速明日、古代遺跡に向かう。 今日は準備が出来たらリシェンは休養する様に」


 ボロはリシェンに向かって真剣な表情で言い放つ。


「そして、俺は――今からレジの作った酒を飲む!」


 ズッコケるリシェンとレジ。


 その後、ボロはレジに拳骨で頭を殴られ、禁酒を言い渡された。

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