俺は変われたか?

 俺がこの互助会の会員になってから半年近くが立つ。


 年末に家に帰らずに馬鹿騒ぎをしていて、ある日一通のメールが入っていた。


 それは白根からで、毎日が楽しすぎて彼女の存在を忘れていたことにそこで初めて気がついた。


 メールには入試として東京に来ることと、久しぶりに話せないかという内容。





 いつものように溜まり場でメールを見ていると、麻由が後ろから声をかけてくる。


「なに見てるのよ?」


 画面を覗きこんでくるので、携帯をひっくりかえして隠す。


「あら……隠し事?偉くなったものね……あなたも」


「うるせえな、人のメールのぞき見るなんて趣味が悪いぞ」


「私の趣味が悪いなんてすでに知れ渡ってるわよ」


 ため息つくように俺の横に座り、足を俺の膝に投げだしてくる。


「……重いよ」


「ソファが狭いのよ、我慢しなさい」


 そっぽを向く麻由に、だったら別の場所へ行けばいいじゃないかという言葉が喉まで出掛けたが面倒くさいことになりそうなのでもう一度メールの文面を凝視する。


 俺の彼女……。 城岡白音は俺のひとつ下で、俺が高校のときの後輩。


 田舎の高校の生徒会長になるやつなんてのは大体二つに分けられる。


 よほどの目立ちたがりか、内申点目的だ。


 俺の場合は後者だ。 北陸の雨の多い街で育った俺は故郷が好きではなかった。


 冬は猛吹雪、一年中雨が多くて、年々増えていくシャッター街。 そして田舎特有の閉塞感が大嫌いだった。


 あそこから脱出したくて大学は地元ではなく東京にしたのだ。


 そのためにも柄ではない生徒会長に立候補した。 



 生徒の自治とはいってもそんなものに興味はない大半の学生からの支持?を受けて俺は生徒会長になることができ、そしてそのときの副会長の選挙で選ばれたのが白音だった。


 後はよくあるパターンだ。


 おなじ共通点があれば仲良くなることはたやすい。


 ありふれた小説のように俺たちの交際ははじまった。 


 そして願ったように東京の大学に合格し、俺は故郷を出ることとなった。


 当然俺と白音の関係はそこで終わるはずだった。 


 だけど……俺が東京に出発する前日、彼女から呼び出しを受ける。


 それは雪がちらつく日で、近くの公園に呼び出され、開口一番、彼女は俺にこういった。


『自分も同じ大学に行く』  


 成績からすれば俺の入学する大学は彼女の成績では頭ひとつ分足りないくらいだったが、紅潮した彼女の顔を見ていると素直にそれが嬉しいと思っている自分に気づいた。


 もしかしたら嫌いだった故郷で彼女は唯一、好きだった存在なのかもしれない。


 そしてその日、俺たちは結ばれた。 お互いに初めて同士でぎこちないものだったが、生まれて

初めて故郷を離れたくないと思った日でもあった。


 抱き合ったベッドの上で俺達は約束をする。


『合格するまで連絡はしない』


 それはおとなしい彼女の方から提案をしてきた。


  おそらくは気弱な自分がへこたれてしまわないように自ら課した試練なんだろう。


「わかった」


 そう言うしかなかった。 彼女が気弱な自分を叱咤するためにあえて言ってきたその提案を無

下にすることはできなかった。 


 地元から出るためと都会に住んでみたいというだけで、彼女が内心望んでいた地元への進学

から逃げた自分が、その彼女から逃げることはできなかったのだ。



「なあ……ちょっと聞いていいかな?」


「な~に?面倒くさいわね」


 億劫そうに振り返る麻由の瞳をまっすぐ見つめて問いかける。


「俺って少しは変われたかな」


 それだけでピンと来たのか、


「メールの相手は昔の友達?それなら大丈夫よ、あなたは変わったわ、私からみればまだまだだ

けど、少しは洗練されてきてるわ……自信をもちなさい」


 ニコリと笑ってまた向こうを向いた。 気のせいかその姿は少しうれしそうにも見えた。

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