ホームレスから始める異世界人生

RYOMA

第1話 コンビニ袋にドラゴンの爪

コンビニで、菓子とドリンクを買って外に出てみると、なぜか目の前に、巨大なドラゴンが俺を睨んで立ちはだかっていた。


「なぜ!」

意味はわからないこの状況に、俺は思わずそう叫ぶ。そんな驚く俺のことなどお構いなく、ドラゴンは大きな口を開いて、何か危険なものを吐き出しそうな気配をさせ始める。


やばい・・そう思った瞬間、開け放たれたドラゴンの口から、赤く激しい炎が吹き出された。一瞬の出来事で、避けることもできず、その炎は俺の頭を直撃した。


だが・・それほど熱くない・・いや、ぬるいドライアーを当ててるくらいの温度しか感じない。


ドラゴンは、自分の炎が通用しないと悟ったのか、巨大な腕を振り上げて、それを俺に叩きつけてきた。さすがに死んだと思ったのだが・・・俺に直撃したドラゴンの爪が、逆に吹き飛んだ。


ここで俺は全てを悟った。これはよくある異世界への転移でのチート設定と言うモノではないだろうか。もしかしたら、俺はこの世界では、無敵の強さを誇るのでは・・・マジか! バラ色人生確定! ハーレムだ、これはよくあるラノベのあれなやつだ。勝ったぞ、俺は勝ち組だ。だが、俺は踊る心を落ち着かせる。いやいや、喜ぶのはまだ早い。何かの間違いかもしれん。冷静になった俺は、その辺にあった棒切れを拾うと、それで目の前にいるドラゴンを思っ切り叩いてみた。


叩かれたドラゴンは、信じられない勢いで吹き飛び、後ろにあった大きな岩にぶち当たって、動かなくなった。


これは間違いない・・俺は無敵の転移者だ。この世界では何でもありだ。好き放題できるんだ。


「よし、とりあえず街に行こう。そして豪遊だ!」


そうだ、豪遊って言ってもお金が無いな、とりあえず、これでも持っていくかな・・


俺はその辺に転がっていたドラゴンの爪を拾った。ドラゴンのドロップアイテムである、相場はわからないけど、多分高く売れるはずだ。だけど、これを入れる袋がない。俺は少し考えて、その爪をコンビニ袋に入れることにした。中に入っていた菓子はそこへ置いていき、飲み物は飲みながら行くことにする。


かなりの時間歩いて、ようやく街のようなものが見えてきた。お腹も空いてきたので、早くドラゴンの爪を売って、豪遊することを考える。


街は大きかった。この世界の規模感がわからないので、正確にはわからないけど、都市と呼んでいいほどの規模があった。


街の人は、俺と同じ人間だけではなく、ファンタジーではお馴染みの、エルフやドワーフのような姿の人も多く見かける。


街に来て一安心したことがある。それは言葉の問題である。周りで話している会話を聞いても、内容を理解することができるので、言葉は通じそうであった。これもチート設定のなせる技であろう。


とりあえず、このドラゴンの爪をお金に替えたいので、その辺の親切そうな人に、これを売れそうな場所を聞いてみた。


「何、魔物のドロップアイテムを売りたいのかい?」

「はい。どこか知ってますか」

そう聞くと、露天のおばちゃんは、冒険者ギルドの場所を教えてくれた。そこでアイテムの換金をしてくれるそうである。


教えてもらった場所へ行くと、少し大きな石造りの建物が建っていた。鎧や、武器を装備した人たちが、出入りしているのを見ると、ここであっているようである。


俺は建物の中に入って、受付のエルフの女性に話しかける。

「すみません。このアイテムを換金したいんですけど」

俺はドラゴンからドロップした、爪を、そのエルフに見せる。エルフの女性は、少し驚くと、こう話を返してきた。

「すごいですね。これはアースドラゴンの爪じゃないですか、わかりましたすぐに換金します」


よし、やはり良いアイテムのようだ。高値で売れるのを祈りながら待っていると、思わぬ言葉が、そのエルフの女性に言われる。


「それでは冒険者証明書をお見せください」

「はい? なんですかそれは」

「え。あなた冒険者じゃないんですか?」

「え・・と、証明書はないですけど、心は冒険者です」


俺がそう言うと、エルフの女性はすごく困った顔をする。そして、すまなそうにこう話をしてくれた。

「申し訳ありません。冒険者証明書を持っている方でないと、換金はできない決まりなんです。悪いですけど、証明書を発行後に来てもらえますか」


困ったもんである。お役所仕事と言うか・・まあ、この世界のルールなら仕方ないか・・しょうがないので、証明書の発行をどこですればいいいか、そのお姉さんに聞いてみた。すると同じ建物の二階でしてくれるとの話なので、俺は二階に向かう。そこで受付に冒険者証明書の発行をお願いした。


「はい。では手数料で2万7千ゴルド必要ですが、持ち合わせはございますか」


聞いたこともない単位が出てきた。もちろん初耳なくらいなので、そんなものは持っていない。

「お金・・ないんですけど・・・」


細々とした声でそう伝えると、受付の人がこう聞いてきた。

「では、貴族や王族の紹介状、または冒険者大学の卒業証明書はありますか、それがなければ、発行することはできません」


・・・・・マジか・・なんだこのクソみたいな世界観は・・とんとん拍子に行くんじゃないのかよ・・


「出直します・・・」


俺はそう言うのが精一杯であった。




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