やきもちおもち

采火

とある年の大晦日の夜、白銀の小袖を吹雪かせて、飢えた子を抱く若き娘がこう云った。


「この子にやきもちをやかせてやってください」


合掌造りの山の家主を尋ねた娘に、家主は困り顔。赤子に食わせる餅など有りはしない。

暖炉にくべた、焦がしたお味噌の、お餅を一つ手に取って、家の主はこう云った。


「赤子に餅はやれないが、こんな餅でよければあんたにやろう」


若き娘が御相伴に預かると、乳がでて赤子もそれを飲む。

乳を与えながら娘は云った。


「この子にやきもちをやかせてやってください」


なんて強情な吹雪の娘よ。

家の主は首を降り、雪の日一夜の宿を取らせてやった。


そうしてあしたになると、娘の姿はなく、後には笑いもせぬ、泣きもせぬ、氷のような赤子が一人残されておったと云う。




これはまだ一昔前のお話。

一昔───たった十年ほど前のお話だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る