どうしても、忘れられないことがある。

『過去』というのは不思議なものです。

ずっと昔に過ぎ去ったことのはずなのにいつまでも覚えていることがあるかと思えば、少し前のことなのにすっかり忘れてしまったことがあったり。

誰かを傷つけた、という記憶がずっと消えてくれなかったり、あるいは誰かに傷つけられた、という記憶がずっと残っていたり。

大切に思っていた相手のことを、時間が経って「いい思い出」と振り返ることができるようなことがあるかと思えば、時間が経ったからこそ余計に、その人が大事に思えてしまう、ということがあったり。

いずれにしても変わらないのは、その『過去』がいくつも積み重なった先に、『現在』があるということ。そしてそれは、いつかの『未来』に至ったとしても、変わることはないのです。

この物語の主人公の刻都も、当然ながら、そうした『過去』の上に立っている人間なのです。
彼には、六年という長い月日が経っても、どうしても忘れられない『過去』があります。
ある『動画』をきっかけに、彼は再び、その『過去』と向き合うこととなります。
そして――悠伽という少女と交わした『約束』、記憶に残り続けるAadd9のアルペジオ、そんな『過去』との繋がりを辿っていく先で――彼は『心なんて、なければよかったんだ』と、そう思うような『何か』と直面することとなります。

彼の『過去』には一体何があったのか。悠伽との『約束』とは一体何だったのか。そして――導かれていった、その先に待ち受けているものとは、一体何なのか。最後まで、決して目を離すことができません。

これからこの作品を読む、という方には、是非、刻都たちと一緒に『その先』のことに思いを馳せながら読んで頂きたいと、そう思いました。