1田舎に到着

 夜行バスを降りてから、まず朝飯を食うことにした。

 駅の近くにある複合店で食いもん探してたら、大きく『海鮮丼980円』と書かれたのぼりがあったから、ええがな、と思ってそこに決めた。


 奥まった通路を進んで店に入ったら、他に客が見当たらんで、こりゃハズレか、と思った。しかし、ようよう考えると夜行バスを降りてまだ朝早く、開店直後な訳で、こんな朝イチに海鮮丼食おうっちゅうアホは居らんやろう、オレ以外に、と思い直した。


 店員がやってきてすぐメニューを開いて、のぼりにあった海鮮丼を頼もうと思ったが、まて、ここ内陸やぞ。沿岸で海鮮丼をフューチャーすんのは分かるけど、こいつら一体何を自信満々に提示しとんのや、と気になった。やっぱハズレなんか、と難しい顔をしてメニューを凝視してたら店員が、


「お決まりですか?」

「あ、え、海鮮丼で」

「かしこまりましたー」


 勢いで頼んでしもた。

 ほんで案の定、微妙な海鮮丼やった。


 がっかりしながら爺さん家に行き、おとんから預かってた鍵で家の扉を開けたら、海鮮丼よりがっかりした。子どもの頃の記憶より、玄関が三周りくらい小さい。

 自分の成長より、過ぎてしまった時間に落胆した。田舎に着いて早々、こんな哀しい目に遭うとは。このままではいかん、と思って、靴を脱ぎ捨てて玄関を這い回りながら叫んだ。


「ノルマンディ上陸じゃぁあい!」


 廊下をバタバタ走って台所に入り、台所のテーブルに積もった埃を手で叩きながら居間に向かう。居間から隣りの客間へ前回り受け身をして飛び込み、まだまだぁ! と奇声を上げて阿波踊りを踊りながら玄関に戻り、ガレージへの扉を開ける。


「ガレージ阿波踊りの誕生や!!」


 自分でもよく分からんことを言いながら、ガレージの電気を付ける。

 そしたら灰色のカバーに覆われたモノを見付けた。


「なんやこれ」


 素に戻って、カバーを取り外す。そこに白い原付があった。

 カバーが掛けられていたこともあって、埃にはやられていない。

 おもむろに跨がってみる。ハンドルを掴んで、一度左のグリップを捻ってみたが回らず、じゃあ右か、と思って回してみたら回った。


「おぉ~……」


 無意味に感嘆して、回るハンドルをまじまじと見てたら、キーが刺さりっぱなしになっているのに気付いた。

 少し緊張しながら、そのキーに触れ、回してみる。が、


「なんや、壊れてるやん」


 鍵を回しただけでエンジンがつくもんやと思ってたオレは、三度がっかりして、婆ちゃんの介護施設から見舞いに行くことにした。

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