26 わかれ(前編)

 幽冥牢屋敷地下の奥の奥に存在する、主の幽冥牢でさえ詳しい事情は知らぬ謎の屋敷。そして今は彼の屋敷のメイドが所有する個人住宅、通称『朧スペース』。

 その建物の前に沙衛門とルビノワは立っていた。

 沙衛門は肩口で袖の裂けた忍び装束の上に、いつもの袖なしの上掛けを羽織っており、ルビノワは黒の野戦服にアーミーパンツ、そしてアーミーブーツで身を固めていた。

『奥内戦の想定で。銃弾の被害は想定内ですが、爆破だけは避けて』

と朧からの指示が出ていたので、手榴弾やグレネードランチャーはリストから外したが、それ以外に装着出来る制圧用の装備はあらかた用意して来た。

 彼女のトレードマークである縁なし眼鏡だけが場違いな印象を与えている。


 玄関が開いて行く。

 朧は眼前の屋敷の自分の部屋で、るいと一緒にいるはずだ。




 ルビノワは、揃って装備している、喉に貼り付けたマイクに小声で話し掛けた。

「朧、配置完了。今から突入する」

「ではミーティング通り、私の部屋がランデヴー地点で。

 そのまま進んで下さい」

 朧がインカム越しに、ルビノワ、沙衛門へ連絡を指示を出す。

 遂に自分のいる時に『あいつ』が現れたのだ。




 先日、朧の大事な指輪が紛失する事があった。彼女の話によれば、それは彼氏の形見となった指輪だそうだ。それは探し尽くした結果、朧スペースの台所の引き出しから見つかったのだが、朧本人に覚えはない。

 その一件と前後して、この朧スペースには以前から彼女にそっくりな人物が徘徊しており、来客として訪れた幽冥牢達にも多少の被害が出ていた。

 今までは悪戯程度で済んでいたが、朧は自分の指輪を勝手にいじられた事が我慢出来なかった。

 そこでルビノワ達に相談したのだ。




 作戦会議から数日後の今日。そいつの捕獲作戦を実行するべくルビノワ、沙衛門、るいの四人がこの朧の住居の各所に網を張り、『あいつ』の出現を待っていた。

 とは言っても、その『あいつ』とやらは朧に瓜二つなので、朧を除いた他の三人の内、誰かが彼女を見張っていなければならない。その時に誰かに対峙している朧自身が『あいつ』である可能性も捨て切れないので、いざという時は朧と戦闘出来る者でなければならない。

 出現場所がこの屋敷とその周辺なだけ、多少はマシと言えるか。




 果たして、その役を買って出たのはるいだった。

「沙衛門様とルビノワさんは外から誘い込んで下さい。朧ちゃんは私が見ています。

 もう昔の様なヘマはしませんよ」

と言って、沙衛門にいつもの様に微笑んだのだ。


 とは言え、お互いに戦闘のプロフェッショナルだ。何人もの屍を踏み越えて来た者同士、やり合えば只では済まない。しかももしこちらの朧が問題の当人だった場合、生かさず殺さずで気絶させて捕らえるしかない。

 るいの忍法は使えない。一瞬で朧が灰燼と化してしまう。命と引き換えになる。

 そこで沙衛門は必死に

『自分にやらせろ』

と言ったのだが、るいが聞かなかったのだ。




 るいが、その話の後に、部屋で朧にそっと打ち明けた。

「沙衛門様、ちょっとしょげているかもしれないわね。

 でも私は守られているだけの女でいるのは嫌なの。守られているだけでは何も自分で守る事が出来ないもの……私の強がりかもしれない。でも、そうしたい。

 朧ちゃんには分かってもらえるかしら?」

 その問いに朧は、

「いつでも沙衛門さんと一緒に、肩を並べていたいからですよね」

と答えた。るいは嬉しそうに微笑した。

「ええ。ここぞと言う所で女だからと置いて行かれるのほど悔しい事はないわ。また、馬鹿にされて大事なものを壊される事も私は我慢出来ません。

 だから私は、いつまでも自分の利用価値を示して生きていくつもり。例え途中でまた先に逝く事になってもね。

 皆には悪いけれど、黙って何もしないでいるよりもずっと有意義な人生だわ」


『犠牲的精神だと言いたい人には言わせておくわ』

と言ってるいはまた微笑した。

 朧は、何だかるいがそのままいなくなってしまいそうな気がして、彼女の手をきゅっと握った。るいも優しく握り返す。


 指を絡ませ合い、二人は少しの間、見つめ合っていた―




 今まで『あいつ』に遭遇した時の経験から

『対人用トラップでも有効ではないか』

という事で、ルビノワ達は朧スペースの数ヶ所にセンサー反応式の捕縛トラップを設置した。獣用ではない。


 その上でルビノワの手にはゴムスタン弾装備のショットガンがあった。沙衛門はルビノワから渡されたビー玉サイズの鉄球を指で弄んでいた。『指弾』という訳だ。しかし直接当てる時には手加減しないといけない。風穴を開けていい相手ではないのだ。

(さすれど、手加減出来る様な相手ならどれほど楽か)

と沙衛門は思った。




 その数日前。

『何をするのかだけでも教えて欲しい』

と言う幽冥牢も含めた五人が揃ったミーティングの時だった。

 朧にはかつて体得させられた特殊能力があるという。自分の両手を眺めながら、朧が説明を始めた。

「私のその能力というのは、うーん……名前を付けるならCut caused by whirlwind。和訳すれば鎌鼬ですねえ」

「竜巻の近くで発生するというあれか」

「沙衛門様は、見た事があるのですか?」

「ああ、お前を弟子として仕えさせるより、ずっと昔のお役目でな。敵方に竜巻を自在に繰り出せる奴がいたのよ。三人が瞬く間にやられた」

 ルビノワが言う。

「鎌鼬と呼ばれる現象の、現状で推測されている原理としては、動画などで沙衛門さん達にも見せたと思いますけれど、砂嵐で吹き上げられた砂利や小石、木の葉によるものだと考えられています。そこで、大気に当たって急激に乾燥した皮膚があかぎれする様なものだと。

 皮膚は言うまでもなく、相当に丈夫な組織なので、鋭利かつ深い傷を付ける場合には、それこそ刃物を使った方が早いんですけれど。ただ、傷の深さに反する出血の少なさなどが、予測される治癒までの期間より圧倒的に早いそうで、そこの説明はまだつかないらしいですね」

「なるほど、現代に至っても、現象としてまだ解き明かされていない事も多いのか」

「ええ。また、怪我をした人がこれまたピンポイントで特異体質だったりする場合もありますしね」

「あり得ぬ話ではないな。何故かそういう現象と何かしらを宿す者は引き付け合うらしい」

「となれば、更に心得て向かわねばなりませんね」

 るいも苦い表情で頷いた。沙衛門が補足する。

「俺もるいも、この着物の下には鎖帷子がある。その時の仲間達も同じであった。

 そしてあれらは、『霧雨』は使えなんだが、それでもお役目を任されるだけの忍法を体得していたつわもの揃いよ。それを意にも介さずばっさりやるのを見た。

 どうにか返り討ちには出来たが、それを手札のひとつとする飯綱使いかどうかは分からなんだ」

 幽冥牢が挙手した。

「飯綱使いについて質問が。それを一言で説明するとしたら?」

「管狐という式神の類を使役し、祈祷から呪いまでを司る、修験者の一種と言っておこうか」

 式神使い。幽冥牢は昔の映画である『帝○物語』や、以前、『犬神博○』という漫画で知ったイメージを浮かべた。どう考えても常人の及ぶ範疇ではない。

 思う所を挙げてみる。

「陰陽師みたいなものですか」

「地域特化しておるが、通ずる所はあろうな。その後、目に見えぬ何かに追われる事がなかったので、

『どうやらそれではない様だ』

と思っただけではあるものの、普通ならばどこかで、倒した奴の、もしくはその仲間の飯綱使いによる管狐が俺を襲っていたはず。それだけは、どうにか免れたらしい。

 いずれにしても、鎌鼬か……いやはや恐ろしい話よ」

 沙衛門が苦く笑う。不敵さをはらんだ笑みに幽冥牢は唸った。

「そちらの世界もご存知の沙衛門さん達でも対処が難しい、か……」

 沙衛門は顎に手をやり、しばし黙考したが、言った。

「しかし、原理は知れたし、俺達の前に現れるというのなら話は別だ。それなら俺とるいは奥の手で相殺は出来よう。

 霧雨もただ秘伝の製法で、おなごの黒髪をより合わせた細紐ではない。詳しくは明かせんが、これはこれで祈祷によって一種のまじないがかかっておる。得物として用いているが、俺とるいには何よりのお守りなのよ」


 ルビノワはそこで、以前から気にかかっていた事を訊ねてみる事にした。

「話せる範囲で結構なんですけれど、お二人の一族のそもそものルーツみたいなものって何なのでしょうか」

「俺達の、か。ひたすらに修行に明け暮れて免許皆伝を目指し、めでたくそれを果たしてからは、お役目で生きて帰れるかどうか、という日々であったから、少しらふなものになるが、良いかな?」

「ええ、この機会に是非」

「元はどこにでもある村の領主の寄り合い衆よ。古くからの地元民という奴よな。俺とるいも郷士であるし。

 それが、自分達の土地を守るべく、六角氏の下、甲賀侍が結束して出来た甲賀郡中惣という集合体として固まった。

 正しくは『こうが』ではなく『こうか』と読む。俺達は抜けた身だ。なので、面倒な相手への目くらましになれば助かるし、呼び方はどちらでも良い。詳細はうぃきで頼む。

 その昔、足利義尚との『鈎の陣』という戦があり、以降も結束を緩めずにいた様だが、戦乱の世であった事と、とにかく諸国大名方の、中でも織田信長による戦が激しくてな。

 時期としては、俺とるいも、ねっととやらで照らし合わせてみたが、永禄11年には里を抜けておる。

 俺とるいはその甲賀五十三家の中にあった重家の下にあったのだが、そ奴に幼少の頃よりえらく嫌われていてな。俺の師匠も殺された。で、色々あって抜けた。抜けられたのも、明けても暮れても戦に次ぐ戦の、戦乱の世であったからと言えるやも知れぬ。

 その後は調べれば調べる程悲しくなるのでかっとさせて頂くが、武装もしていたというだけで、後はその時代にはよくあった村のひとつよ。田畑を耕し、行商をして情報を集め、暦に従って祭りをする。

 薬の扱いに長けておるというのが特徴かな。

『今も製薬会社が多い』

と書かれていたのは嬉しかった。

 さておき、同じ集まりにおれど、百人おれば百のお家芸、百の特徴が出よう。俺達のそれも似た様なものよ。

 して、

『戦に使えるのなら尚よろしい』

という事で、それに特化したのが、俺で言えばこの『霧雨』か」

 沙衛門はそう告げ、いつぞやの様に、独自製法の得物である細紐、『霧雨』を手に絡ませて見せた。

 るいが言う。

「『霧雨』は、沙衛門様がお師匠様のつらら殿から仕込まれた秘伝の技なのです。それを体得出来た私は、沙衛門様を通して

『秘伝中の秘伝を授からせても良いと認められた』

という、生きた証でもある訳です。

 それが今の世に途絶えたものだとしたなら尚更。私に誇れるものがあるとしたなら、それが唯一のものになります」

「なるほど……」

 ルビノワは『百人いれば~』の辺りに深く納得をした。それなら自分達とそうは変わるまい。




「拳法?」

「ええ、まあ。理由がありますけれどお、心意六合拳を少々」

「ほほう。理由を聞いても?」

「ルビノワさんと長く傭兵稼業をしていたんですけれど、腕前を見せないと納得しない馬鹿が多かったんです。つまり、相手の腕前を見抜けない。ルーツでは伝来中のあれこれから悪いイメージが立っているそうなんですけれど、そういう連中に見せ付けるには、逆にうってつけだったんです」

「苦い話をさせてしまった。しかし、丁寧な説明をありがとう、朧殿」

「いえいえ。まあ、そういう理由での選択でしてえ」

「そういう手合いは、どこにでもいるものよな。俺も嫌という程見て来た。お察し」

 それとなく合掌してみせると、朧は微笑んでくれた。

 それにしても、朧が拳法使い。時代背景の問題で沙衛門は初めて対峙するが、

(それを相手に匂わせない辺りが見事だ)

と、深く感心した。

 るいも訊ねてみる。

「なるほど……それで行きますと、ルビノワさんは?」

「分類するなら柔術です。それとナイフ格闘を。シチリア辺りのナイフ術を少々」

「どんな感じなのですか?」

「振り回すのではなく、そうですね、フェンシングを以前、ネットで見せたと思いますけれど、あの速度で斬り付けるとイメージして頂ければ。基本的には突く感じで、されど狙い済まして斬り付けます」

「あれですか。速度に慣れるしかなさそうですね」

 るいも顎に手をやりながら、しばし黙考する。

 彼女は得物としては今のナイフで言えばフォールディングタイプ、それの刃の大きな鎌を使うが、基本的には逆手で構える。これならば普通に持った場合の弱点である、敵の得物で薙ぎ払われるという心配がない。ただ、フェンシングの速度での斬撃となると、速度が厄介だ。

「二人とも謙虚さがあって大変よろしい印象だな。つまり、同じ修行中の身の上という事か。

 今後ともどうぞ良しなに」

「そうなりますねえ」

「こちらこそ、今後ともどうぞよろしく」

 沙衛門の言葉に、うやうやしく、ルビノワと朧はお辞儀してみせた。




 で、次だ。

 朧の手刀の切れ味はルビノワから聞いていたが、この作戦を実行するにあたって、改めて実際に見せてもらった時、沙衛門とるいは正直

(彼女を少し舐めていたかもしれない)

と認識を改めた。

 朧の、およそ指先から肘の辺りまでから、気流の様なものが発生する様子であった。そして彼女はそれを時には荒波の如く、時には回転ノコギリを携えるが如く、自在に繰り出せるのだ。

 まず、手刀でなぞる様に触れただけで直径二十センチの丸太が寸断されてしまった。指一本でなぞるだけでも同等の事が可能だと彼女は言った。

 朧はその気になれば相手を愛撫しながら細切れにする事が出来るのだ。自分達の使う『霧雨』と比べても切れ味は少しも劣らない。


 沙衛門とるいは唸り、心からの拍手を送った。

「なるほど、朧殿、『鎌鼬』とはよく喩えられた。それにお主の体得している拳法か、それが加わるのだとしたら、俺達もうかつにはいなせぬ」

「手首を切り飛ばそうにも、そこで拮抗されては……更に拳法ですか。厳しい相手です」

 沙衛門達の『霧雨』は放って絡み付ける事で、切り裂く事も締め上げる事も出来る。ワイヤートラップの様に使用する事も可能だ。その製法上の理由から、今日まで他の如何なる刃物を当てても『霧雨』が切れたのを沙衛門とるいは見た事がない。

 それと同等の切れ味の手刀を振るう朧。その偽者とはいえ、相手にするのは気が重かった。

(最終的に頼りになるのは朧本人とるいくらいではないのか)

と、沙衛門は苦く感じた。




 そこからの、当日。

「身内と争うのはこれで最後にしたいものだ」

と沙衛門は苦く笑った。ルビノワはそんな沙衛門を見て申し訳なく思った。

 考えたくない事だが、るいがもし死んでしまったら彼も生きてはいまい。聞いた所では、過去に一度、彼はるいに先立たれている。前回は彼女への思いを抱えたまま、生きる事を選択した。

(今回はそうならないだろう)

とルビノワは思った。

 大事な人間に二度も先立たれてまで生きて行く事に、一体何の価値があるだろう。




 だからこそ、そうなる事は何としてでも避けなければならない。




 思えばたった一月足らずの間に随分親密な関係になったものだ。

(流れ者の女二人と忍びの二人か……)


 ルビノワはふと思いに囚われた。出会った場所とタイミングが良かっただけだ。ただそれだけのはずだ。

 しかし、それだけではない何かを、この幽冥牢屋敷の秘書は感じていた。




「つまらない方に考えるのは良くない。好きじゃない。

 楽しい方にイメージを広げたい。その方がロマンチックだし素敵だと思いませんか?

 酷い目に遭っている時だって楽しい事を思い浮かべる力があれば、そちらへ向かって歩き出せるんですよう、ルビノワさん」

 そう言って朧は、昔、深々と雪の舞う中、とある寒い地方へ向かう列車の中で自分の瞳を覗き込んで、悪戯っぽく微笑んだのだった。




 初めは彼女のそんな楽観的なものの見方がはっきり言って嫌いだった。彼女の過去を良く知らなかった頃だ。自分にとってそんな彼女は夢見がちの世間知らずなお嬢さんでしかなかった。

 視野が狭くなっていたのはこちらの方だったのに、それに気付いていなかった。


 それにもめげずにへこんでいる自分を優しくいつも慰めてくれた。

「泣いちゃったっていいじゃないですか。

 恥ずかしかったら見ないフリをしてあげますよ」

 そう言ってその胸に抱きしめてくれた。

 ルビノワ以上に泣いてくれた時も少なくない。かえってこちらの方が気後れしてしまったものだ。

「だってルビノワさん、可哀想ですよう……」

 そう言ってくれた。こちらの髪を優しく撫でてくれながら

「何時までも一緒にいてあげますからねえ。

 二人でやれば何とかなります。大丈夫」

と。


 一人で何処までも流れて行くものだと思っていたから、彼女のセリフには凄く救われた気がした。

(あんまり嬉しくて、朧を抱きしめちゃったのよね)

『一人ぼっちではないのだ』

と思えるだけでどこまでも行ける様な気がした。

 そしてこの屋敷に辿り着くまでの長い長い旅路を、彼女はいつだってサポートしてくれた。

 自分をかばって怪我したりもした。その時はホントに心細くて、治療室の外でボロボロ泣きながら、一晩中ろくに信じない神様に祈ったりした。


 何回も確認したその事を思い出すと、彼女の体に力がみなぎって来た。朧の昔の彼氏の話を聞いた時の事も思い出され、朧に受けた恩返しをする絶好の機会である事をはっきり認識した。

 ただ迷走し続けるだけの自分をここまで連れて来てくれたのは朧だ。

 その彼女が悩んでいる。




「助太刀させてもらうわよ、朧」

 先程までの嫌な緊迫感が一変、じっくりと獲物を待つ時の自分のペースに戻りつつあった。




 ルビノワが沙衛門の目を見て口を開いた。

「沙衛門さん、るいさんを信じましょう。別に彼女を人身御供にしたい訳ではないんです。

 皆で朧を助けるのが目的です。失敗した場合の事も考えてあります。

 死なせる為にそう配置をしたのではないんです」

「……承知した。俺達は仲間だ。

 一人で誰か多勢を相手にする訳ではない。今回は四対一でそいつを仕留める。

 そうだな、ルビノワ殿」

「信用してくれるんですね」

「勿論だ。ここで初めてお主達と出会った時に我々は決めたのだ。

 日頃の俺はチャランポランで分かりにくいかもしれんが。普通の人間として扱ってくれたのは昔の仲間以外では主殿を含め、お主達だけだ。嬉しかった。るいも喜んでいた。

 それと、これは聞き流してくれ。

……覚悟は出来ている。死にに行くのではなく朧殿と戦う覚悟だ。

 その結果、どうなっても朧殿を責めてくれるな。俺とるいはお主達を守る為に戦うのだ。感謝こそすれ恨んだりなど絶対にするものか」

「沙衛門さん。まだ分かってくれていないんですね……」

「ルビノワ殿?」

 ルビノワは彼の手を取った。沙衛門が珍しくたじろぎつつも、するがままにさせた。

「私達がそういう事を望んでいると思いますか?

 朧だって悲しみます。主殿だってきっと落ち込みます。だからるいさんと生きようとして下さい。

 それに私達はもっともっと、楽しい思い出を作りたいです。

……作りましょうよ、一緒に。皆で」

「……また先走ってしまったかな」

 息をつくと、沙衛門は苦く微笑んだ。ルビノワもそれを見て、優しく彼の手を握るとそっと離し、微笑する。

「残念ですけどね」

 ルビノワは玄関のチャイムに手を伸ばしながら言った。

「私は皆で屋敷に戻るつもりですから。朧もるいさんも沙衛門さんも、死なせたりしませんよ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る