16 ぶら下がり高給取り三人組

 ルビノワの話が始まる。

「皆さんこんばんは、ルビノワです。

 今日はあの三人が来ない内にお知らせを全てお伝えしてしまおうと思います。だって、毎回脱線して途中でどうでも良くなって来るんですもの。

 あの連中、いないな?……よし!

 そういう事で、では今日のお知らせです……」

 問題発言イベントフラグを無自覚に自分から建てて行く女、ルビノワだった。


「今日のお知らせは以上です。

……来ない来ない☆ 良かった~! 最初の一言を喋ると来たりするのではっきり言ってビクビクものでした。

 ホントに怖くて泣くかと思った。

 何と言いますか、あれですね、どれほど少人数の職場でもそれぞれのリーダーがいないとダメですね。早く選挙委員会を起こして新しい『委員長』を決めようっと。ではごきげんよう」


 その時上から髪の毛が一本落ちて来た。察したのかそれに気付き、かわしつつ上を見て、ルビノワが悲鳴を上げた。

「きゃあああああっ! な、何してるんですか、いい大人が三人揃って!?」

 支柱から連結している上のパイプの一本に他の三人が逆さまにぶら下がっている。

 満面の笑みを浮かべているメイド、忍び、くノ一の逆さ吊りは変に猟奇的で見る者をぞっとさせた。朧のスカートは長さが足首まであるのでともかく、るいの着物の裾は重力に逆らっているのかフィット具合の関係なのかそのままだ。

「こらっ! そこの最強の変態三人組!!

 皆がびっくりするでしょう? 降りて来なさい! 怒らないから!!」

「怒らないって言ってますよう? どうしますか?」

「嘘ばっかり。絶対に叱られるのだ。

 悲しい事だ。ちょっと上からルビノワ殿の首周りの微妙なアングルを眺めて楽しんでいただけなのに」

 沙衛門の指摘に、慌てて、冬用にしては首周りの広いセーターの首の前を隠すルビノワ。

「んもうっ! 沙衛門さんのH!」

「いやあ☆」

「褒めてません!」

 この頃になると、ルビノワは照れくさげに頭をかく沙衛門にも鋭利なツッコミを入れられる様になっていた。またも留守だったが、幽冥牢からすればとても喜ばしい事だ。

 さておき、るいがそんな彼をたしなめる。

「沙衛門様、私は

『幼児退行は二人きりの時だけにして下さい』

と申し上げた筈ですよ。もう、忘れん坊さん☆」

「どんどんお二人の夜の生活が明らかになって行きますねえ☆」

「今のはサービスですけれど、ギャラを頂ければもっと明かしますよ。 ひとつ明かす度に二万円頂きます。ふふふ」

「強い女……ってそうじゃなくて降りて来なさいと言ってるんです。あんまり悪戯ばかりしているとパイケーキ沢山投げ付けて、クリームだらけで困っているのを見てくすくす笑いますよ!?」

「それでうっかりしているとHな事をされるんですねえ? 『WAM』って奴ですねえ、ルビノワさん。

 新しいプレイですねえ☆」

「生クリームによる汚れが生じますか……ギャラさえ頂ければ……そうですね、一回の興行のギャラが五万といった所ですか」

 逆さまのまま、懐から取りい出したるそろばんをぱちぱちと弾くるい。何故か普通に機能するそろばん。

「何だか頼もしいぞ、るい」

「惚れ直して頂けたでしょうか。ほほほ」

「あの……るいさん、悪く言えば凄いろくでなしですよ?」

「私共の様な所謂自由業の人間は、常識に縛られていてはお金を稼げないのです。ですから泣く泣くやっているのです。

『もう……あの頃には戻れない……」

と思いながらも、この様な道に。よよよ」

 袖で目元を覆い、悲しげな声を上げるるい。他のぶら下がり二人も泣く。

「連れに手を出そうとする上司を殴ったら首にされてしまい、金も行く所もないのだ。こんな俺達に何という酷い物言い。くっ……」

「お金が稼げるというので来てみたら、労働契約書が二重になっていて無茶な条件で働かされているんです。こんな格好、友達に見せられないよう。ひっく。勿論

『お触りには微笑を返せ』

という悪夢の様な追加条件付きです。

 嗚呼、お母さん、私はどうすればいいの?」

「黙れ、高給取り三人組」

「また、言葉攻めだわ。くすん」

「何言ってるのよ! あんたの今の話は昔の話でしょ? 組織の店でウェイトレスのバイトした時のっ!!

 自分で怒ってぶっ潰したでしょうが。組織ごと。だから降りて来るっ!!

 ホントに投げるぞっ! パイケーキ!!」

「ルビノワ殿にー、直訴するー! 食べ物を無駄にするのはー、やめよーう!!」

「ミートゥー!!」

「ほほぅ、あ、そう。

 三人ともそこにいなさいよ? 私だってこういう時の為にそういうものを用意しているんですからね。

 そこにいなさいよ!? 逃げたらその後の損害とか無視して探し出してパイケーキだらけの刑にしますからね!」

 スタスタとスタジオを後にしたルビノワだが、残された三人の思考はどこまでも桃色に染まっていた。

「何と! ルビノワ殿のぱいけーきを如何にしてこのまま避けるかという修行か!!

 ふふふ、久々に血震いして来たぞ、るい!」

「私もです、沙衛門様! 

『ルビノワさんの動作からの不可抗力チラリズム』

を如何に、そしてどれ程その目に収めるかなども競えますね!!」

「何……だと……!? まさに夢の様な企画だ……!

 朧殿、この様な企画にお招き預かり、大変恐れ入る。二人とも、ここはひとつ、れっつとらいと行こうじゃないの」

「おー!☆」




 その後の掃除の大変さは思い出したくもないので、省略させて頂く。

 こうして普通ならお花見などに行くかと思わせておいて、ひな祭りの日も幽冥牢とルビノワ達は忙殺の事態に喘いで終わった。

 タイルの床で本当に、本当に良かった。

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