10 幽冥牢、遂に挟まれる

「皆さんこんばんは、ルビノワです。

 今日も今日とて主殿は独立準備中です。それの進行具合についてお送りしたいと思います。今日は、と言いますか、今日もゲストで朧と主殿が来ていますので、各項目毎にコメントを貰いながらお伝えします。

 ではお二人ともご挨拶を」

「どうも。ここ数日、新しい自分のページの準備の方にばかり時間を取られ、

『こんなんじゃ元のページの方が飽きられてしまったりしないかしら?

……やだ、嫌われちゃうよう!』

というジレンマに襲われている幽冥牢です」

「その様子を影でじっと見守るメイドの朧です。見ているとご主人様は結構面白いです。一人占めしてすいません」

 深々と二人は頭を垂れるのだった。垂れたまま幽冥牢は囁いた。

「朧さんはいつも謝る所が少しずれてはいないですか?」

 主の耳に囁く朧。

「その事、皆には内緒ですよう?」

「いいけど、後で何か俺にくれよな」

「内緒も何もこれは『お知らせ』で 今のは全て丸聞こえなんですけど……」

「むう……」

 ルビノワの冷静な指摘に、声を揃えて顔を上げた二人は、額に脂汗をにじませ、苦い表情を浮かべるのだった。


「ではまず、タイトルページの映像が変わりました。そこからお願いします」

 そう、トップページに当時は幽冥牢が描いた彼女らのイラストを置いていたのだった。その構図についてだった。幽冥牢が説明する。

「はい。まずあの映像ですが、ルビノワさんと朧さんの何気ない日常のヒトコマを切りとってみました。

 本人達の仲の良さが伺えますね☆」

「何時もあんな感じなんですよう。困っちゃいますよねえ☆」

「そうね☆ フッ……」

 口調の明るさと反する冷笑をルビノワは浮かべている。

「あっちへフラフラ、こっちへフラフラする彼女を止めている私の図なんです。と言いますか、あの表情でうろつかれると変なのが寄って来てやたらとエスコートしたがるから嫌です。

 気を付けてね? 朧ちゃん?」

「ルビノワさん、怖っ!」

「誰のせいなの、誰の!?」

「まあまあ、二人とも。

『ヒワイなキャットファイト』

をする場合は、また今度それらしい場所でお願いしますよ」

「しません!」

「しかし昨日はこのコーナーで凄い事をしていたんでしょう?

 俺は最後しか見ていないので、もし二人が行うのなら最前列で見たいんですが。ビデオ撮影OKですか?」

「昨日は私がヒワイなお仕置きをされただけですよう?」

「尚更どういう状況だったのか詳しく知りたいなあ」

「主殿は知らなくて大丈夫です。ですから列も作りませんし、凄い事とかももうしません」

「ええ~っ……じゃあ、そのヒワイなお仕置きの観戦で我慢します」

「我慢しないでいいです」

「また今ここでお仕置きですかあ?」

「違いますっ! 私は昨日自分の行った事を省みて、大変後悔したんです。

 ですからもう暴れたりしません。だから朧も頬を染めない! 瞳を期待に輝かせてうるうるさせないの」

「別にしてもいいのに……」

「ハモらないでいいです」

「ガードの硬い女性だ……」

 しみじみと呟く幽冥牢にルビノワが釘を刺す。

「主殿! その話は終わりです!!」

「はぁい。……あの、ルビノワさん」

「はい?」

「ごめんね?」

「!? あ、はい。その、あの……」

 何故だか顔を伏せて照れるルビノワ。朧がテーブルを叩いて立ち上がった。

「ああーっ! 二人で仲良しっ!!

 私も混ぜて下さいようハアハア」

「何……だと……!?

 俺も混ぜて下さいようハアハア」

「二人ともっ! お尻引っぱたきますよ!?」

「すいません」

と幽冥牢は頭を下げて詫び、

「どうぞ……」

と朧は染まった頬に手を当てて瞳を閉じた。

「よろしい……って、ええっ!?」

 しれっと流しかけてから、思わず二度見してしまうルビノワだった。




 ルビノワの話は続く。何しろお知らせだ。

「次は

『過去にリンクして頂いた方々のバナーを貼った』

という事についてですが」

 幽冥牢が続きを引き受ける。

「今あちらさん、こちらさんに連絡をとって許可を頂いている所なんですが、コーナー名は

『リンクロワイアル』

にします」

「各ページの管理人さん同士を戦わせるんですねえ☆」

「いえ、それらしく各管理人さんのページの特色になるものを使用武器という表示でお知らせするだけですよ朧さん……って君ね、リンク先減らしてどうすんじゃ、減らしてっ!!」

「私も皆さんを戦わせるのかと思いました」

「Oh……!」

 驚愕にうめき、席を立った幽冥牢は、ルビノワに近付いて手を取り、優しく微笑しながら肩を叩いてあげた。無言であった。

 彼には

『良いキャラになって……朧さんの考え方に随分近づいたな』

と言ってやる勇気は全く無かったのだ。

「あ、主殿?」

「大丈夫」

 そのまま無事に場を流せると幽冥牢が確信し、席に着いたその時。

「何だか私と考え方が似て来ましたねえ、ルビノワさん☆」

「あぐっ!?」

 画面が暗転した。



 放送再開。何故か 青い顔で脂汗を垂らしながら朧とルビノワの頭を撫でて、握手をさせている我らが主、幽冥牢。

 ぱっと見た所にはダメージを受けていない様子。と思ったら、うめき声を上げながら前方を睨み付けつつ、アバラの辺りを押さえて席についた。ルビノワと朧が近寄ろうとするが、それを手で制し、

(お知らせを続けましょう)

というジェスチャーをする。何とか自分を制したのか、何も無かった様に続ける二人。

「で、では、これはまだ決定ではないのですが、新メンバーが二人増えるかも知れないという事ですが」

「おぐっ……は、はい、殆ど決まったような物ですが……忍者が二人っ、く、来る事になると思います……!」

「ご主人様、もう喋らなくていいですよう……!」

「いやいや……ぐうっ、お、お仕事はせねば……!」

「本当にごめんなさいぃ……!」

「新しい……ページが始まったら、タイトルページを見て頂ければ分かるのですが、私だけが良く知っている連中が来ます。彼らは多分映画紹介のコーナー……担当に」

 真っ白に燃え尽きた某ボクサー風に笑みを浮かべ崩れかける幽冥牢を朧が支える。息も絶え絶えになりながら、幽冥牢が言った。

「なり、ます。以上……」

「今日のお知らせは以上です。ルビノワと朧、主の幽冥牢がお伝えしました」

「……ごきげんよう」

 血の気が完全に引いて汗だくになっている幽冥牢が、にやりと死人の笑みを浮かべ、挨拶した。




 朧とルビノワが調べてみた限りでは、恐らくアバラにひびが入っている。二人が激突しようとした間に割り込もうとして、ルビノワの鉄山靠を背後から浴び、前方にいた朧の、恐らく防御を試みようとしてか、両手による痛烈な掌打もこれまたまともに浴びてしまった。

 まさかそんな技を彼女らが繰り出して来るとは思わなかったが、幽冥牢はほんの少し前に彼女らの日本語の堪能さに舌を巻いてそれとなく質疑応答していたら、実はプロの傭兵であると聞いたのを綺麗さっぱり忘却し、

「や、やめられら……!」

と某番長風にどもりながら、無謀にも雄雄しく飛び込んでしまったのだ。

 彼女らが共にたまたま発した

「イヤーッ!」

という掛け声の間に。奇しくも、これまた後年ならピンと来る悲鳴である

「グワーッ!」

という絶叫と共に目を『><』にしながら、全身で逃げ場のない衝撃を受け止めると、驚愕に打ちのめされる彼女らの間で、幽冥牢は膝を着いて、それからゆっくりと横倒しになったのであった。

 普通は死ぬ。その作品の主な戦闘要員ではなかったから、別れの言葉と共に爆発四散しなかっただけだ。

 で、先程のお知らせを済ませた次第である。普通は死ぬ。




 どうにかこうにか呼吸をする。とても起きてなどいられない。呼吸をする度に激痛が返事をする。

「み……民間人の傍で、け、げほっ、ごほっ! う、うう……け、喧嘩しちゃあ……駄目、ですよ?」

と、ボロボロ泣きながら縋り付くルビノワと朧の頭を撫でながら呟いたが

「……うがはっ」

と声を上げると、今度こそ幽冥牢は白目を剥いて気絶した。

 慌てふためきながら、

『救急車はまだか』

だとか、更に戦場の癖で

『衛生兵ーッ!』

と、喚き続ける彼女達であった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る