油断すんなよ、人生は二重底だぞ!

わかな

「安孫子と中山」

中学生の頃は、自我が芽生えてきて、友人関係や自分の趣味なんかに多少の変化があったりする時期だ。



経験があるだろう?



今にして思えばクソみたいなこだわりや、その頃の言動、反社会的な思考(顕在化しているかどうかは問題でない)など。中二病なんていう言葉だって登場して久しいじゃないか。


同じクラスに、中山と安孫子のいう女子生徒がいた。安孫子は同じ小学校で、家はラーメン屋をやっていた。同じマンションに住んでいた、やはり同じクラスの佐久間くんと一緒に、出前を取ったこともあった。ぼくはあんかけ焼きそばとかは嫌いなので、決して注文しなかったけれど、佐久間くんはけっこう喜んで注文していたように思う。


佐久間くんはよく、おいしいから食べろ食べろと言ってぼくに勧めた。ぼくは要らないと言ってもなかなか断りきれず、一度だけ食べたことがある。


あんかけ焼きそばで口の中を火傷したのはそれが最初で最後だと思う。


もう安孫子の家のラーメンも、佐久間くんが注文するあんかけ焼きそばも、食べることはないだろう。



安孫子は、小学校の頃こそ大人しい感じであったが、中学生になると、付き合う友人関係のせいなのか、だんだん派手な感じになってきて、制服や学校のジャージを着崩して着るようになったり、明らかに悪い感じに見える先輩とかとつるむようになっていた。その安孫子とつるんでいて、安孫子よりもっと派手なのが中山だった。


ぼくは中山とは全く接点を持たなかったし、安孫子ともほとんど口を聞かなかったから、特にどうということはないのだけれど、そいつらの話の中から、「えんどれすれいん」という言葉が聞こえてきていた。


えんどれすれいん?


その時は全くわからなかったが、それはX JAPANの曲のことだったらしいと、ここ最近気がついた。


ぼくも思春期のクソみたいなこだわりで、洋楽至上主義を掲げ、邦楽聞いているなんて人にあらずみたいな考えだったから、えんどれすれいんのことなんて全く考えもしなかったし、中学を卒業し、いざ自分で楽器をやることになってもまだ、その洋楽至上原理主義は継続していたので、そもそも安孫子や中山のことなど全く思い出しもしなかった。



今となっては、邦楽の中にもたくさんいい曲があることもちゃんと理解しているし、ぼくのiPhoneにはセカオワの「サザンカ」だって入っている。


今や、洋楽至上主義は卒業した。むしろ、X JAPANなんか、めちゃんこ好きな部類に入る。


hideさんのイエローハートが欲しくなったり、所有するレスポールのピックアップをEMGに載せ替えたりもした。YOSHIKIさんに憧れてあの透明なシェルのドラムが欲しくて、買う一歩手前まで行ったが、店員さんに、

「これ、ものすごく叩かないとちゃんと音出ないんですよ。X JAPANのYOSHIKIさんがあちこち体壊すのは、ライブでこんなのばっかり叩いているからじゃないですか?」

と言われて、あっという間に目が覚めて買わなかったぐらいだ。


そのぐらい(と言ってもたいしたことはないが)大好きなX JAPANなので、今だったら中山と安孫子の話がわかっただろう。


えんどれすれいん

とは、X JAPANのENDLESS RAINの事だったのだ!!



安孫子たちは、悪そうな先輩とバンド活動をしていたんだ。

安孫子がなんかの楽器をやっていたのか、ただのマネージャーみたいなものだったのかは、今はもうわからない。


でも、X JAPANのコピーバンドをやっていたんだと思う。


今だったら昔みたいに色メガネで見ないから仲良くお話できるのかもしれないな、と少しノスタルジックな気持ちになったところで、ふと思ったんだ。



あの時、安孫子はまだ中1だ。先輩だって中2か中3だろう。


あんな辺鄙な中核都市の、ナンバースクールのコピーバンドがまともにX JAPANの曲なんて演奏できていたんだろうか?


今となってはもうわからないし、知らなくていいことなんだろうと思う。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る