無言電話

 もし、未来の自分と話ができるとしたら、何を聞きたいだろうか?

 もし、過去の自分と話ができるとしたら、何を言いたいだろうか?


 今の自分に不満があるわけではないけれど、もう少しうまく生きられたらなぁって、たびたび思う。

 そんなことをあいつにぼやいたら、ある都市伝説を教えてくれた。


 公衆電話で自分の生まれた年に製造された硬貨を入れて、自分の生年月日をダイヤルすると、自分自身に電話がかかるというものだ。

 それが未来の自分にかかるのか、過去の自分にかかるのかは分からない。

 未来の自分にかかったらアドバイスを貰えばいいし、過去の自分にかかったらアドバイスをすればいい。


 こんなのどこにある都市伝説みたいな内容だし、そんな都合のよい話なんてあるものか、と馬鹿にした。

 だから私はこの先を話半分で聞いていた。


 どうやら、自分以外の人間が電話に出る事もあるらしい。

 と言うか、自分以外の人間が電話に出る方が自然だと思えるが、電話口の相手はこの世の者ではない。もし、電話に出た相手が自分でなかった場合も、決して口を利いてはいけないし、自分から電話を切ってはいけない、とのことだった。


 本来は繋がってはいけない場所へ電話をかけているのだから、繋がりを持ってはいけない。自分から話をしてはいけないし、自分から電話を切ってもいけない。

 つまり、一切の行動はしないでただ一方的に聞くだけ。


 その話を聞いて、私はあいつに言った。

 でも、昔の自分に電話がかけられるならアドバイスしたいわ。私たちがもう少し早く出逢えるようにね、って。


 あいつが嬉しそうに顔をしかめたのは、今でも覚えている。

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